アラブ首長国連邦(UAE)は、短期間で世界的な宇宙開発競争の主要プレイヤーへと急成長を遂げました。その中心的な役割を担っているのが、ドバイ政府傘下のモハメド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)です。同センターは、単なる研究機関にとどまらず、衛星製造から惑星探査、そして有人宇宙飛行までを包括的に管理し、中東地域における科学技術の飛躍的な向上を目指しています。
Key Facts
- 設立の経緯:2006年にエミレーツ先端科学技術研究所(EIAST)として始動し、2015年に現在のMBRSCへと統合・改組。
- 主要ミッション:火星探査機「ホープ(Al-Amal)」の運用、月探査機「ラシード」の開発、および地球観測衛星の製造。
- 技術的自立:UAE国内で設計・製造された初の衛星「KhalifaSat」や、国産率90%を誇る「MBZ-SAT」を実現。
- 有人宇宙飛行:UAE初の宇宙飛行士ハッザー・アルマンスーリ氏や、長期滞在を達成したスルタン・アルネヤディ氏を輩出。
MBRSCの歩みと組織の目的
MBRSCは、ドバイの統治者であるモハメド・ビン・ラシード・アル・マクトゥーム副大統領兼首相によって、知識ベースの経済を構築するという国家戦略の一環として設立されました。2015年の法整備により、既存のEIASTを統合して現在の体制となり、宇宙インフラの整備と衛星製造の監督を任務としています。
現在は、ドバイのアル・ハワニージに本部を置き、高度な衛星製造に不可欠な「クリーンルーム」を備えています。ここでは、エミレーツ人エンジニアたちが最先端の衛星開発に従事しており、地域の科学研究を促進する拠点となっています。
地球観測衛星の開発と進化
MBRSCは、地球観測、衛星システムの開発、地上局サービスの提供という4つの主要分野に注力しています。初期のプロジェクトでは韓国のSatrec Initiative社と協力し、2009年に「DubaiSat-1」を打ち上げました。この衛星は、都市計画や環境モニタリングに活用され、日本の東日本大震災時の救助活動支援にも貢献しました。
その後、2013年には性能を向上させた「DubaiSat-2」を投入。さらに2018年には、UAE国内で設計・製造された初の衛星「KhalifaSat」を日本の種子島宇宙センターから打ち上げ、技術的な自立を証明しました。

さらに、2024年には商用利用を目的とした高解像度衛星「MBZ-SAT」を、2025年にはレーダー撮像技術を搭載した「Etihad-SAT」を運用するなど、観測能力を絶えず強化しています。また、学生への教育機会を提供するため、アメリカン大学シャルジャ(AUS)と連携してキューブサット「Nayif-1」を開発し、若手エンジニアの育成にも取り組んでいます。
惑星探査への挑戦:火星と月
UAEの宇宙開発における最大のハイライトの一つが、アラブ世界初の惑星探査ミッションであるエミレーツ火星ミッション(Hope Mars Mission)です。2021年2月に火星軌道に到達した探査機「ホープ(Al-Amal)」は、火星の大気構造を包括的に調査し、大気が希薄化した原因を解明することを目的としています。
このプロジェクトは、150名のエミレーツ人エンジニアによって推進されました。火星探査の成功は、中東における科学的野心の象徴となり、次なる目標である「エミレーツ月ミッション」へと繋がっています。小型月面車「ラシード」による月土壌の調査は、2117年までに火星に人類の居住区を建設するという壮大な計画「Mars 2117」への重要なステップと位置付けられています。

UAE宇宙飛行士プログラム
2017年に始動した有人宇宙飛行プログラムは、UAEの宇宙能力を人間レベルまで引き上げるための国家的な取り組みです。厳格な選考を経て選出された宇宙飛行士たちは、国際宇宙ステーション(ISS)での任務を通じて、科学実験や文化交流を行っています。
特にスルタン・アルネヤディ氏は、アラブ人として初めての長期滞在(約6ヶ月)と船外活動(宇宙遊泳)を達成し、世界各国の宇宙機関と連携した研究を遂行しました。また、2021年には初の女性宇宙飛行士ノラ・アルマトルーシ氏が選出され、多様性と専門性を兼ね備えたチームへと進化しています。
| 氏名 | 選出年 | 主なミッション | 宇宙滞在期間 |
|---|---|---|---|
| ハッザー・アルマンスーリ | 2018年 | Soyuz MS-15 / MS-12 | 7日 21時間 1分 |
| スルタン・アルネヤディ | 2018年 | SpaceX Crew-6 | 185日 22時間 43分 |
| ノラ・アルマトルーシ | 2021年 | (配属待ち) | 0日 |
| モハメド・アルムッラ | 2021年 | (配属待ち) | 0日 |
その他の革新的取り組みと国際連携
MBRSCは衛星以外にも、成層圏を飛行する高高度擬似衛星(HAPS)の開発など、高度航空システムプログラムを推進しています。また、画像解像度を向上させる「Super Resolution Tool」を開発し、観測データの精度を高める独自の技術開発にも注力しています。
国際的には、PanGeo(地球観測衛星運用者グローバルアライアンス)に加盟し、米国、スペイン、中国などの機関と衛星データや画像を共有することで、地球規模の課題解決に寄与しています。さらに、隔月刊の雑誌『Majarat』を発行し、次世代の科学者育成に向けた啓蒙活動も積極的に行っています。
Frequently Asked Questions
MBRSCとUAE宇宙庁の違いは何ですか?
MBRSCは主に衛星の設計・製造、惑星探査機の運用、宇宙飛行士のトレーニングなどの実務的な開発と運用を担うセンターです。一方、UAE宇宙庁は国家レベルの宇宙戦略の策定や政策管理を行う政府機関としての役割を担っています。
火星探査機「ホープ」の主な目的は何ですか?
火星の大気を包括的に調査することです。具体的には、赤外線分光計や紫外線分光計を用いて、温度パターンや水蒸気、酸素・水素の痕跡を分析し、なぜ火星の大気が失われたのかという謎を解明することを目指しています。
UAEで開発された初の衛星はどれですか?
UAE国内で完全に設計・製造された初の衛星は「KhalifaSat」です。2018年に打ち上げられ、それまでの協力開発から自国開発への転換点となりました。
「Mars 2117」とはどのような計画ですか?
2117年までに火星に持続可能な人類の居住地を建設するという長期的な国家ビジョンです。現在の月探査や火星探査で得られる知見を積み重ね、将来的な有人火星移住を実現させることを目標としています。
UAEの宇宙飛行士はどのような訓練を受けていますか?
選出された宇宙飛行士は、NASAの宇宙飛行士候補者クラスなどの国際的なトレーニングプログラムに参加し、宇宙空間での生存技術、ISSの運用方法、科学実験の手順などを習得しています。
References
- "About Mohammed Bin Rashid Space Centre". MBRSC. Archived from the original on 10 December 2017.
- "UAE to build new space research centre". Arabian Aero Space. 26 May 2015.
- "Law for Establishing Emirates Institution for Advanced Science and Technology". MBRSC. Archived from the original on 21 June 2018.
- "Decree for establishing Mohammed Bin Rashid Space Centre". Archived from the original on 12 January 2017.
- "DubaiSat-2 successfully completes in-orbit commissioning". 14 April 2014. Archived from the original on 27 June 2019.
- "The National UAE". 29 July 2009.
- "DubaiSat-2; Mohammed Bin Rashid Space Centre".
- "Technical Specifications of DubaiSat-2; Mohammed Bin Rashid Space Centre". Archived from the original on 11 July 2017.
- "Satreci US" (PDF). 2009. Archived from the original (PDF) on 4 March 2016.
- "DubaiSat-2 | Mohammed Bin Rashid Space Centre".
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