1980年代のファンタジー文学において、複数の作家が同一の世界観を共有して物語を紡ぐ「共有世界(シェアード・ワールド)」という手法が注目を集めました。その代表的な例の一つが、アンドレ・ノートンとロバート・アダムスの編集によるアンソロジー『Magic in Ithkar』です。本作は、ある都市で開催される年に一度の祭典を舞台に、多様な作家たちがそれぞれの視点から物語を描き出した意欲作です。
Key Facts
- 編集者:アンドレ・ノートン、ロバート・アダムス
- 初版刊行:1985年5月(Tor Books刊)
- 構成:13編のオリジナル短編小説を収録
- 舞台:都市「イスカル(Ithkar)」で開催される年次フェア
- ジャンル:ファンタジー(背景にSF的要素を含む)
世界観の構造:失われた文明と神々の記憶
物語の舞台となるイスカルの背景には、非常にユニークな設定が組み込まれています。かつてこの世界には高度な文明が存在していましたが、ある種の「大虐殺(ホロコースト)」によって滅亡してしまいました。この過去の出来事は、放射能による変異などの描写から、核戦争のような科学的な災厄であったことが示唆されています。
文明崩壊後、この地に星間探査員と思われる「神のような訪問者」たちが降り立ち、彼らが去った後も、人々は彼らを神として崇拝し続けました。彼らの到来を記念して毎年開催されるようになったのが、イスカルのフェアです。この商業的な賑わいを中心に、神殿や司祭階級を擁する都市イスカルが発展しました。
特筆すべきは、その設定の二面性です。歴史的背景はSF的なアプローチで描かれていますが、物語が展開される現代のイスカルは、魔法使いや魔術が当たり前に存在するハイ・ファンタジーの世界として構築されています。
作品の構成と収録内容
本書には、ロバート・アダムスによるプロローグと、アンドレ・ノートンによる著者紹介に加え、13名の作家による短編が収録されています。収録作品は、C.J.チェリーやモーガン・リウェリンといった著名な作家によるものから、多様な作風の物語まで幅広く揃っています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 出版社 | Tor Books |
| ページ数 | 317ページ |
| ISBN | 0-8125-4740-3 |
| 形式 | トレード・ペーパーバック(後に標準ペーパーバック化) |
| 続編 | Magic in Ithkar 2 以降が刊行 |
批評と評価
本作に対する批評は、その娯楽性を認めつつも、共有世界ゆえの課題を指摘するものが目立ちます。批評家のジョン・グレゴリー・ベタンコートは、作家間で設定の細部に矛盾があることを指摘しました。これは、執筆陣に共有される背景情報が不十分であったためと考えられ、SF的な視点を持つ作家と、純粋なファンタジーとして描く作家の間でトーンの不一致が生じたと分析されています。
また、収録順が著者名のアルファベット順であったため、物語の構成上の緩急に欠けていた点も批判の対象となりました。しかし、個別の作品評価では、C.J.チェリー、モーガン・リウェリン、ナンシー・スプリンガーによる物語は非常に高く評価されており、全体としては十分に楽しめる一冊であると結論付けられています。
Frequently Asked Questions
『Magic in Ithkar』とはどのような形式の本ですか?
複数の作家が「イスカル」という共通の世界設定を用いて執筆した短編小説を集めたアンソロジーです。アンドレ・ノートンとロバート・アダムスが編集を務めました。
物語の舞台となる「イスカル」にはどのような特徴がありますか?
かつての高度文明が崩壊した後の世界にあり、神格化された訪問者を祀る神殿を中心に発展した都市です。毎年開催される大規模なフェアが物語の主軸となっています。
設定にSF的な要素が含まれているというのは本当ですか?
はい。物語の表面上は魔法が存在するファンタジーですが、その歴史的背景には核戦争を思わせる文明崩壊や、宇宙からの訪問者の存在など、SF的な設定が組み込まれています。
この本に収録されているおすすめの作家は誰ですか?
批評家の評価では、特にC.J.チェリー、モーガン・リウェリン、ナンシー・スプリンガーの3名による作品が、質的に非常に高いとされています。
この作品に続編はありますか?
はい、『Magic in Ithkar 2』をはじめ、その後もシリーズとして展開されました。
References
- Magic in Ithkar title listing at the
- Fantastic Fiction entry for Magic in Ithkar
- Internet Speculative Fiction database entry for first edition of Magic in Ithkar
- Betancourt, John Gregory. "Book Reviews: Magic in Ithkar", in v. 80, no. 1, November 1985, p. 19.