英国の司法制度において、最高位の職務の一つであるMaster of the Rolls(ロールズ裁判長)を務めたテレンス・エザートン卿(Baron Etherton)は、単なる法執行者にとどまらず、司法における多様性の象徴となった人物です。彼は法的な卓越性だけでなく、自身のアイデンティティをオープンにすることで、後進の法曹にとって大きな道標となりました。
Key Facts
- 最高職歴:2016年から2021年まで、民事司法の責任者であるロールズ裁判長(Master of the Rolls)を歴任。
- 司法への貢献:高等法院の大法官(Chancellor of the High Court)や控訴院判事などを経て、英国司法の枢要を担った。
- 社会的な先駆者:オープンに同性愛を公表した初の最高位判事の一人であり、司法における多様性の重要性を体現した。
- 功績への栄誉:LGBTQ+の退役軍人への貢献が認められ、2024年に大英帝国勲章(GBE)を授与された。
法曹としての輝かしいキャリアと重要判決
エザートン卿のキャリアは、1974年にグレイズ・インで法廷弁護士(Barrister)として登録したことに始まります。1990年にクイーンズ・カウンセル(QC)に任命された後、2001年には高等法院の大法官(Chancery Division)に就任し、騎士号を授与されました。
彼はまた、法改正委員会(Law Commission)の委員長として、法律のレビューと改革の提案という重要な役割を担いました。その後、控訴院判事を経て、2013年には高等法院の大法官に、そして2016年にはロールズ裁判長へと昇進しました。
歴史的な判決への関与
彼のキャリアの中で特筆すべきは、EU離脱(ブレグジット)に関する重要な訴訟「R (Miller) v Secretary of State for Exiting the European Union」への関与です。この裁判では、EU条約第50条に基づく通知に王室特権を用いることの是非が争われました。この判決に関わったことで、一部のメディアから激しい攻撃を受けましたが、彼は揺るぎない姿勢を貫きました。
また、2019年には、イエメン紛争におけるサウジアラビア主導の連合軍による国際人道法違反の有無について、政府が十分な評価を行っていないとして、大臣側の法違反を認める判断を下しました。
貴族院での活動と人権への取り組み
2020年12月、エザートン卿は世襲ではない終身貴族として貴族院(House of Lords)に迎えられ、バロン・エザートン(Baron Etherton)の称号を授かりました。政治的な党派に属さないクロスベンチャーとして活動し、専門的な知見を国政に反映させました。
特に注力したのは、軍内部におけるLGBTQ+の人権問題です。2022年には、1967年から2000年までの軍におけるLGBTQ+隊員の待遇に関する独立レビューを政府から委託され、2023年に報告書をまとめました。この功績は高く評価され、2024年の誕生日名誉賞において大英帝国勲章(GBE)が授与されています。
私生活と多様性への信念
エザートン卿は、自身のセクシュアリティを隠すことなく、それが司法の最高位への昇進に障りにならないことを自らの人生で証明しました。2006年にシビル・パートナーシップ(民事パートナーシップ)を結び、2014年には法改正に伴い、パートナーであるアンドリュー・ストーン氏と改革ユダヤ教の儀式で結婚しました。
彼は、司法における多様性が正義の実現に不可欠であると考えていました。2008年に控訴院判事に任命された際、「性的指向の多様性が、司法の最高レベルへの昇進の妨げにならないことが示された」と述べ、多くの人々に勇気を与えました。
| 期間 / 年代 | 役職・出来事 | 詳細 |
|---|---|---|
| 1974年 | 法廷弁護士登録 | グレイズ・インにて活動開始 |
| 2001年 | 高等法院判事 | 大法官部門(Chancery Division)に配属 |
| 2008年 - 2013年 | 控訴院判事 | ゴードン・ブラウン首相による指名 |
| 2013年 - 2016年 | 高等法院大法官 | Chancellor of the High Courtを歴任 |
| 2016年 - 2021年 | ロールズ裁判長 | Master of the Rollsとして民事司法を統括 |
| 2020年 - 2025年 | 貴族院議員 | 終身貴族(バロン・エザートン)として活動 |
Frequently Asked Questions
エザートン卿が務めた「Master of the Rolls」とはどのような役職ですか?
ロールズ裁判長(Master of the Rolls)は、英国において民事司法の責任者を務める非常に権威ある役職であり、控訴院の副裁判長としての役割を担います。
彼はスポーツの世界でも活躍していたというのは本当ですか?
はい。彼は1977年から1980年まで英国のフェンシング代表(サーブル)に選出されていました。1980年のモスクワオリンピックへの出場権を得ていましたが、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議するボイコットに参加したため、出場はしませんでした。
司法における多様性について、彼はどのような影響を与えましたか?
オープンに同性愛を公表しながら司法の最高位に登り詰めたことで、性的指向がキャリアの障壁にならないことを実証し、司法制度内の包摂性と多様性を推進する象徴的な存在となりました。
彼が晩年に取り組んだ社会的な活動は何ですか?
主に軍におけるLGBTQ+隊員の過去の待遇に関する独立レビューを行い、その報告書をまとめました。この活動を通じて、歴史的な不当な扱いの是正と権利の保護に貢献しました。
エザートン卿はいつ亡くなったのでしょうか?
エザートン卿は2025年5月6日、73歳で逝去されました。
References
- (7 May 2025). "Terry Etherton". A Lawyer Writes. Retrieved 7 May 2025.
- 'ETHERTON, Rt Hon. Sir Terence (Michael Elkan Barnet)’, Who's Who 2016, A & C Black, an imprint of Bloomsbury Publishing plc, 2016
- Bowcott, Owen (26 May 2016). "Britain's first openly gay judge becomes master of the rolls". The Guardian. Retrieved 15 August 2018.
- "Courts and Tribunals Judiciary". Archived from the original on 29 August 2018. Retrieved 29 August 2018.
- The JC
- The Times
- "No. 56092". . 16 January 2001. p. 535.
- "Terence Etherton to Chair Law Commission". legalday.com. 25 July 2006. Archived from the original on 13 July 2011. Retrieved 1 April 2009.
- "No. 58845". . 7 October 2008. p. 15299.
- "Appointment of Chancellor of High Court" (Press release). London: Judicial Office. 20 December 2012. Archived from the original on 11 May 2013. Retrieved 20 December 2012.