アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼの東、ディアブロ山脈に位置するマウントハミルトンの頂に、天文学の歴史を塗り替えてきたリック天文台があります。カリフォルニア大学が所有・運営するこの施設は、単なる観測所ではなく、世界で初めて恒久的に人が居住した山頂天文台として知られています。標高1,283メートルの澄んだ空気の中で、数々の重要な天体発見を成し遂げてきました。
この天文台の設立を可能にしたのは、もともと大工やピアノ製造業で財を成した実業家、ジェームズ・リックによる多額の寄付でした。彼は自身の遺言により、山頂に天文台を建設するための資金を提供し、自らもその地に眠っています。

Key Facts
- 世界初の山頂天文台: 恒久的な居住を伴う山頂観測拠点として先駆的な役割を果たした。
- 歴史的な大屈折望遠鏡: かつて世界最大を誇った口径91cm(36インチ)の屈折望遠鏡を保有。
- 重要な天体発見: ガリレオ以来初となる木星の第5衛星「アマルテア」などを発見。
- 現代的な研究: 系外惑星の探索や超新星の研究など、最先端の天文学に貢献し続けている。
- 光害との戦い: サンノゼ市の街灯改善など、都市化による光害対策を講じて観測環境を維持。
設立の経緯と困難を極めた建設
1876年から1887年にかけて建設されたリック天文台は、古典復興様式の建築が特徴です。建設当時の最大の課題は、急峻な山頂まで資材を運ぶことでした。勾配を6.5%以下に抑えるため、道は非常に複雑に曲がりくねったルートで設計されました。この設計は現在のカリフォルニア州道130号線にも引き継がれており、山麓から頂上までのわずか7マイルの間に367回ものカーブが存在します。

すべての建築資材は馬やラバが引く荷車で運ばれ、多大な労力をかけて完成に至りました。1888年にはカリフォルニア大学に引き継がれ、エドワード・S・ホールデンが初代所長に就任しました。

伝説的な「大屈折望遠鏡」の誕生
天文台の象徴である口径91cm(36インチ)の屈折望遠鏡は、アルヴァン・クラーク&サンズ社によって製作されました。1888年1月3日に初めて光を捉えたこの望遠鏡は、1897年にヤーキース天文台が完成するまで、世界最大の屈折望遠鏡としての地位を保持していました。


天文学における偉大な功績
リック天文台は、太陽系の理解を深める多くの発見を成し遂げました。特に木星の衛星探査において顕著な成果を上げており、1892年にはエドワード・E・バーナードが第5衛星アマルテアを発見しました。これはガリレオ・ガリレイによる発見以来、初めての快挙でした。その後もエララやヒマリアといった衛星が次々と発見されています。
また、研究範囲は太陽系外にも及び、以下のような高度な成果を上げています。
- 系外惑星の発見: 55 Cancri(5つの惑星を持つ系)やUpsilon Andromedaeなどの多惑星系の検出。
- 活動銀河核の研究: メシエ87の活動銀河核から噴出するジェットの検出や、NGC 1068の隠れた活動銀河核の特定。
- 恒星の分光分析: ドナルド・C・シェーンによる炭素星のスペクトル分類の拡張。
時代と共に変化する観測環境と設備
20世紀後半になると、近隣のサンノゼ市やシリコンバレーの発展に伴い、深刻な光害(人工光による夜空の明る化)が問題となりました。1980年代には、市が街灯を低圧ナトリウムランプに交換するなどの対策を講じ、観測環境の維持に努めました。この取り組みを称え、国際天文学連合は小惑星6216に「サンノゼ」の名を冠しています。
設備面では、1959年に完成した口径3メートル(120インチ)のC.ドナルド・シェーン反射望遠鏡が主力となり、適応光学(大気の揺らぎを補正する技術)などの最新技術が導入されています。

主要設備一覧
| 望遠鏡名称 | 形式 | 口径 | 主な特徴・用途 |
|---|---|---|---|
| C.ドナルド・シェーン望遠鏡 | 反射 | 120インチ (3m) | 適応光学システム搭載の主力機 |
| 自動惑星探査機 (APF) | 反射 | 94インチ (2.4m) | 系外惑星の探索に特化 |
| 大リック屈折望遠鏡 | 屈折 | 36インチ (91cm) | 歴史的な大屈折望遠鏡 |
| クロスリー望遠鏡 | 反射 | 35インチ (90cm) | 木星の衛星発見に使用された |
| KAIT (自動撮像望遠鏡) | 反射 | 30インチ (76cm) | 自動化された撮像システム |
困難を乗り越えて未来へ
リック天文台の歴史は平坦ではありませんでした。1939年には霧の中で米陸軍航空軍の攻撃機が本館に衝突する事故が発生し、また2020年には大規模な山火事(SCU Lightning Complex)が施設を脅かしました。さらに2025年末には、時速183kmに達する猛烈な突風により大屈折望遠鏡のドームシャッターが損壊する被害を受けています。
しかし、Googleからの寄付やカリフォルニア大学の継続的な支援により、現在も研究拠点としての機能を維持しています。現在はリモート観測が主流となり、研究者は遠隔地から宇宙の謎に迫っています。
Frequently Asked Questions
リック天文台は誰が設立したのですか?
実業家のジェームズ・リックによる寄付によって設立されました。彼はもともと大工やピアノ製造業で成功した人物で、自身の遺言でこの天文台の建設資金を提供しました。
この天文台で発見された最も有名なものは何ですか?
1892年に発見された木星の第5衛星「アマルテア」が非常に有名です。これはガリレオ・ガリレイ以来、初めて発見された木星の衛星でした。
なぜ山頂に建設されたのですか?
街の明かり(光害)を避け、大気の揺らぎが少なく澄んだ空で観測を行うためです。特にマウントハミルトンの頂上は夜間の空気が非常に穏やかであるため、天体観測に最適でした。
現在も観測は行われているのですか?
はい、現在も稼働しています。系外惑星の探索や超新星の研究、新しい適応光学技術の開発など、カリフォルニア大学の多くのキャンパスから研究者が利用しています。
光害の問題にはどう対処していますか?
サンノゼ市と協力し、街灯を低圧ナトリウムランプに交換するなど、夜空への影響を最小限に抑える照明プログラムを導入することで、観測可能な環境を維持しています。
References
- "The Lick Observatory Collections Project: Building the Observatory". collections..org. Retrieved March 19, 2018.
- Kirby-Smith, H. T. (1976). U.S. Observatories. New York, US: Litton Educational Publishing, Inc. .
- "Lick Observatory, Mt. Hamilton, Cal". loc.gov. Retrieved March 19, 2018.
- Foote, H.S. (1888). Santa Clara County, California. Chicago, Illinois: The Lewis Publishing Company. pp. 126–133.
- Calhoun, Liz. ""To The Unmounted Lens" from Hand-book of the Lick Observatory". University Lowbrow Astronomers. . Retrieved December 31, 2018.
- California Architect and Business News, 9/1881; Lick Observatory Archives.
- On the road to Mt. Hamilton, a guide book for the tourist ... San Jose?.
- "Obituary Notices: Fellows:- Warner, Worcester Reed". Monthly Notices of the Royal Astronomical Society. 90: 383. February 1930. :1930MNRAS..90..383.. :10.1093/mnras/90.4.383 – via SAO/NASA Astrophysics Data System (ADS).
-
"The Lick Observatory Completed (from San Francisco Alto May 22, 1888)". . May 29, 1888. p. 5. 0362-4331.
Sometime this week the Trustees of the James Lick Estate will convey to the Board of Regents of the State University the Mount Hamilton Observatory.
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