テーブルトークRPG(TRPG)の歴史において、公式と非公式の境界線を歩みながら独自の地位を築いた世界観があります。それが、Kenzer & Companyによって生み出されたKingdoms of Kalamarです。惑星テレン(Tellene)を舞台にしたこの壮大なファンタジー設定は、地理、生態系、宗教、そして国家間の複雑な関係性を詳細に描き出し、多くのプレイヤーを魅了してきました。
Key Facts
- 開発元:Kenzer & Company(1994年創設)
- 舞台:惑星テレンにある「カラマー王国」
- 互換性:AD&D第2版から始まり、D&D第3版、第4版、およびHackMasterに対応
- 特徴:極めて詳細な世界設定と、高品質なフルカラーマップによる視覚的アプローチ
- 実績:D&D第3版において、公式ライセンス製品として市場に最速で投入された設定の一つ
誕生と初期の展開:非公式からのスタート
1994年、デヴィッド・ケンザー氏とその友人たちが、AD&D(Advanced Dungeons & Dragons)第2版への情熱からKenzer & Companyを設立しました。彼らが最初に手がけたのが『Kingdoms of Kalamar』です。当初、この作品はTSR社の許可を得ていない非公式な設定としてリリースされました。
戦略的に「汎用的な設定」として宣伝され、あらゆるRPGシステムに適用可能とされましたが、実質的にはAD&D第2版との互換性を重視して設計されていました。当時のパッケージはジップロック袋(後にボックスセット化)で提供され、以下の内容が含まれていました。
- Volume 1 (Sourcebook of the Sovereign Lands):テレン大陸の6つの地域を詳細に解説した地理・社会ガイド。
- Volume 2 (Mythos of the Divine and Worldly):43柱の神々、秘密結社、占星術、暦を網羅した宗教書。
- 大型フルカラーマップ:24x36インチの精巧な地図2枚。
- 距離測定ツール:マップ上の距離を正確に測るための専用道具。

初期版への高い評価
第1版は、特にその視覚的な完成度と設定の深さで絶賛されました。専門誌『Shadis』では、TSR社の製品に匹敵する耐久性と美しさを備えたマップが高く評価され、宗教設定が政治や社会構造に深く結びついている点が、ゲームマスターにとって絶好のシナリオ素材になると称賛されました。また、後年の歴史家シャノン・アペルクライン氏は、詳細へのこだわりが、名作『Hârn』のファンタジー版のような趣を持っていたと分析しています。
公式ライセンスへの昇格と第3版の黄金期
1990年代後半、Wizards of the Coast(WotC)社がD&D第3版の開発を進めると、Kenzer & Companyはライセンス契約の交渉に成功します。2000年11月、カラマーは正式にD&Dの公式世界として認められました。
2001年に出版された『Kingdoms of Kalamar Campaign Setting Sourcebook』は、従来の2つのボリュームを統合し、さらに約10万語の新規コンテンツを追加したハードカバー本となりました。この製品は、WotC自社が展開する「フォーゴトン・レルム」よりも早く市場に投入された、第3版初のライセンス製品となり、商業的にも大きな成功を収めました。その後、30ものライセンス製品が展開され、Origins Awardの最優秀RPG部門にもノミネートされるなど、絶頂期を迎えました。

賛否分かれた第3版の構成
一方で、批判的な意見もありました。フランスの雑誌『Backstab』では、第1版の内容をそのまま再利用し、新規要素を付け加えただけの構成であるため、冗長で消化に時間がかかると指摘されました。また、アートワークの質や、新種族・新クラスの不在についても厳しい評価が下されました。
ライセンスの終了とその後
2007年8月をもってWotCとのライセンス契約は終了しました。しかし、Kenzer & Companyは歩みを止めませんでした。2006年には自社RPG『HackMaster』の第2バージョンにおける公式設定としてカラマーを採用しています。
また、2008年のD&D第4版の登場に際しては、キャンペーン設定とアトラスを統合したPDF版をリリースしました。この際、WotCのゲームシステムライセンス(GSL)に従わない形式で出版し、「ルールは創造的な表現ではなく、単にそのルールで動作するものである」という知的財産権の解釈を主張して物議を醸しました。しかし、第4版ベースの製品は市場で苦戦し、追加サプリメントの制作には至りませんでした。
製品概要まとめ
| エディション | 主な特徴 | ライセンス状態 | 形態 |
|---|---|---|---|
| 第1版 (1994年) | 汎用設定としてリリース、詳細な地図と宗教書が特徴 | 非公式 (AD&D第2版互換) | 袋詰め/ボックスセット |
| 第3版 (2001年) | 大量の新規コンテンツ追加、市場最速のライセンス製品 | 公式 (D&D第3版) | ハードカバー |
| HackMaster版 (2006年) | 自社システムへの移行 | 公式 (HackMaster) | - |
| 第4版 (2008年) | GSLを回避した形式での出版 | 非公式 (D&D第4版互換) |
Frequently Asked Questions
Kingdoms of Kalamarとはどのような世界観ですか?
惑星テレンにある「カラマー王国」を舞台にしたファンタジー世界です。地理、動植物、宗教、国家などの詳細な設定が作り込まれており、特に43柱の神々を中心とした宗教体系が社会構造に深く影響している点が特徴です。
もともとは公式のD&D設定だったのでしょうか?
いいえ、最初は非公式のサードパーティ製設定として1994年に発売されました。その後、2000年にWizards of the Coast社と契約を結び、D&D第3版の公式ライセンス設定となりました。
この設定の最大の魅力は何だったと言われていますか?
特に初期において、非常に高品質で耐久性のあるフルカラーマップが絶賛されました。また、単なるデータ集ではなく、宗教が政治や社会にどう影響するかという深い世界構築(ワールドビルディング)が評価されました。
第4版でのリリース時にどのような論争がありましたか?
Kenzer & CompanyがWotCのゲームシステムライセンス(GSL)を利用せずに製品を出版したためです。同社は「ルールそのものは著作権による創造的表現に当たらない」という法的見解を示し、ライセンスなしで「互換性がある」製品を出す手法を取りました。
現在はどのような状態で利用できますか?
D&Dの公式ライセンスは2007年に終了していますが、その後は自社システムであるHackMasterの設定として、あるいはPDF形式の資料として提供されてきました。
References
- "The Kingdoms of Kalamar - RPGnet RPG Game Index". index.rpg.net. Retrieved 2021-05-21.
- Shannon Appelcline (2014). Designers & Dragons: The '90s. . .
- Arsenault, Mark (March 1995). "Bits n' Pieces". . No. 18. p. 85.
- Johnson, Scott (November 1994). "Closer Look". . No. 16. pp. 70–71.
- (December 1996). "Roleplaying Reviews". . No. 236. p. 114.
- "Games | Article | RPGGeek".
- "Kingdoms of Kalamar Campaign Setting Becomes Official Dungeons & Dragons World". . November 1, 2000. Archived from the original on February 11, 2003.
- "Wizards of the Coast/Kenzer & Company License Agreements Expiring". Retrieved 2007-07-18.
- Croitoriu, Michaël (June 2001). "Jeux de Rôles". Backstab (in French). No. 31. p. 81.
- "Pyramid: Pyramid Review: Kingdoms of Kalamar (For Dungeons & Dragons)".
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