← ホームへ戻る

共同雇用(Joint Employment)の定義と法的リスク・メリットの解説

🗓 2026年8月8日

現代の多様な働き方の中で、一人の従業員が複数の企業から指揮命令を受ける共同雇用Joint Employmentという形態が存在します。これは、2つ以上の事業体が、ある従業員の活動に対する管理権限や監督責任を共有している状態を指します。

共同雇用には単一の普遍的な定義はなく、適用される法律(例えば米国の家族医療休暇法など)によって、どのような状況が共同雇用に該当するかが個別に定められています。企業にとって、この概念を正しく理解していないと、予期せぬ法的責任を負うリスクがあるため注意が必要です。

Key Facts

  • 定義:2つ以上の事業体が、一人の従業員に対して共同で管理・監督権限を持つ状態。
  • 責任の共有:条件を満たせば、複数の雇用主が連帯して最低賃金や残業代などの法的義務を負う。
  • 判断基準:契約書の記載だけでなく、実態としての「指揮命令権(コントロール)」の強さが重視される。
  • 法的リスク:責任範囲を明確にしていない場合、一方の雇用主の不備で他方も訴追される可能性がある。

共同雇用の判定基準と法的枠組み

ある関係が共同雇用にあたるかどうかを判断する際、裁判所や当局は形式的な契約よりも「実態」を重視します。主なチェックポイントは以下の通りです。

  • 同一のスタッフを複数の事業体が雇用しているか。
  • それぞれの事業体に相互の関連性があるか。
  • 雇用主が従業員の業務に対して、どの程度のコントロール(指揮・監督権)を行使しているか。

雇用契約書に「複数の雇用主を持つ」と明記されていれば共同雇用とみなされる可能性が高まります。一方で、契約上は単一の雇用主であっても、実際には別の事業体が強い指揮命令権を行使している場合、法的に共同雇用と判断されることがあります。つまり、直接的・間接的を問わず、コントロールの度合いが強いほど、共同雇用と認定される確率が高まります。

米国においては、全米労働関係委員会(NLRB)がこのステータスを規定しています。2020年2月の裁定では、共同雇用者として分類されるためには、他社の従業員の雇用条件などの重要な項目に対し、「実質的かつ直接的で即時的なコントロール」を行使している必要があるとされています。

運用上の責任分担:主雇用主と副雇用主

共同雇用の状況下では、役割に応じて責任が分かれています。一般的に、採用権限、業務割り当て、福利厚生の提供、給与支払いを担う側が主雇用主(Primary Employer)となります。

主雇用主は、家族医療休暇法(FMLA)に基づく通知や健康保険、福利厚生、復職後の職務提供などの義務を負います。対して副雇用主(Secondary Employer)は、例えば派遣会社から提供された従業員が休暇から戻った際、その受け入れを行う責任などを負います。また、副雇用主はFMLAの適用対象であるかに関わらず、禁止行為の規定を遵守する義務があります。

共同雇用における責任分担の概要
項目 主雇用主 (Primary Employer) 副雇用主 (Secondary Employer)
主な役割 採用、給与支払い、福利厚生の提供 業務の受け入れ、現場での指揮
通知義務 FMLA等の法的通知を行う責任がある 原則として通知義務はない
復職対応 職務の復帰を保証する (派遣等の場合)元の従業員の受け入れ責任
法的遵守 全般的な雇用法遵守 禁止行為の規定への遵守

共同雇用のメリットとデメリット

導入によるメリット

企業側にとっての最大の利点は、ニッチな業界の専門スキルを持つ人材を柔軟に確保できることです。また、給与コストや福利厚生費を複数の雇用主で分担できるため、人件費の削減につながる場合があります。

従業員側にとっても、複数のプロジェクトに携わることで、締め切りに合わせて仕事のペースを調整したり、多様な組織との関係性を構築したりできる柔軟性が得られます。また、複数の会社でパートタイムとして働くよりも、共同雇用契約でフルタイムとして安定して働きたいと考える層にとって魅力的な選択肢となります。

潜在的なリスクとデメリット

一方で、管理上の混乱という大きなリスクが伴います。例えば、2つの雇用主の間で勤務スケジュールや病気休暇などの条件が異なる場合、従業員との間で不整合が生じやすくなります。また、不当な扱いを受けた際の苦情申し立て先が曖昧になる傾向があります。

法的なリスクとしては、一方の雇用主との間で紛争が起きた際、雇用裁判所が両方の雇用主を被告として請求を行うケースがあり、責任のない側の雇用主まで巻き込まれる可能性があります。実際に、ウォルマートやDHLのような大企業が、共同雇用の従業員に対する残業代未払いなどで訴追された事例があります。

Frequently Asked Questions

契約書に書いていなければ共同雇用にはなりませんか?

いいえ、なりません。契約書に記載がなくても、実態としてある事業体が従業員に対して強い指揮命令権(コントロール)を行使していれば、法的に共同雇用とみなされる可能性があります。

残業代の支払責任はどうなりますか?

公正労働基準法(FLSA)などの枠組みでは、複数の雇用主が独立して行動せず共同雇用状態にある場合、その週の全労働時間に対して両雇用主が個別に、かつ共同で責任を負います。ただし、他方の雇用主が支払った分を充当することは可能です。

共同雇用関係を解消したい場合はどうなりますか?

一方の雇用主が事業売却やサービス停止などで関係を終了させる場合、その後の取り決めは個別の状況によります。もう一方の雇用主が単独契約に切り替えるか、あるいは全責任を引き継ぐかなど、事前の合意が必要です。

トラブルを防ぐために企業がすべきことは何ですか?

将来的な不確実性を避けるため、雇用主間での責任範囲を明確に定めた合意書を作成することが極めて重要です。契約書の文言を精査し、専門の法律顧問に相談することを強く推奨します。

References

  1. "Garland's Digest on employment discrimination law". Archived from the original on 2011-04-02.
  2. Law.cornell.edu, (2014). 29 CFR 791.2 - Joint employment. | LII / Legal Information Institute. [online] Available at: https://www.law.cornell.edu/cfr/text/29/791.2 [Accessed 30 Oct. 2014].
  3. "US Department of Labor announces final rule to rescind March 2020 joint employer rule, ensure more workers minimum wage, overtime protections | U.S. Department of Labor".
  4. "Federal Register :: Request Access".
  5. "Federal Register :: Request Access".
  6. DLA Piper, (2014). Joint employer law: is the NLRB edging closer to the abyss? Takeaways from the Bloomberg webinar | Insights | DLA Piper Global Law Firm. [online] Available at: http://www.dlapiper.com/en/us/insights/publications/2014/10/joint-employer-law-nlrb-edging-abyss/ [Accessed 30 Oct. 2014].
  7. The Emplawyerologist, (2014). Has Wal-Mart Helped to Expand the Scope of Joint Employment?. [online] Available at: http://theemplawyerologist.com/2014/10/02/has-wal-mart-helped-to-expand-the-scope-of-joint-employment/#more-1125 [Accessed 30 Oct. 2014].
  8. Lawroom.com, (2014). LawRoom: Definition of Joint Employers. [online] Available at: http://www.lawroom.com/Memo_Preview.aspx?txtmemoid=1685#P6_62 [Accessed 30 Oct. 2014].
  9. Anonymous IOMA's Payroll Manager's Report, Feb 2012, Vol.16(2), pp.1-3
  10. Dol.gov, (2014). U.S. Department of Labor - Wage and Hour Division (WHD) - Fact Sheet. [online] Available at: https://www.dol.gov/agencies/whd/fact-sheets/35-mspa-joint-employment [Accessed 30 Oct. 2014].