かつて国家主導で行われていた宇宙開発は、いまや民間企業の参入により劇的な変化を遂げています。その最前線に立つのが、東京に本社を置くispaceです。同社は、月面への輸送サービスや探査技術の開発を通じて、月にある天然資源の発見、マッピング、そして活用を可能にすることを目指しています。
ispaceのビジョンは単なる探査に留まりません。宇宙機関や民間企業からの輸送・探査ミッション請負を通じて、月面における経済圏の構築を推進しています。米国やルクセンブルクにも拠点を構え、グローバルな展開を加速させています。
Key Facts
- 設立:2010年9月10日(前身はWhite Label Space Japan)
- 主要事業:月面着陸船(ランダー)および月面車(ローバー)の開発・運用
- ミッション:月面資源の探索と、持続可能な輸送インフラの構築
- 主要パートナー:NASA(CLPSプログラム)、欧州宇宙機関(ESA)、Draper Laboratoryなど
- 上場市場:東京証券取引所(証券コード:9348)
ispaceの歩み:競争から商業展開へ
ispaceのルーツは、2000年代後半に設立された国際的なエンジニアチーム「White Label Space」にあります。もともとは、月面に宇宙船を到達させ500メートル走行させることで2,000万ドルの賞金を競った「Google Lunar X Prize(GLXP)」への挑戦から始まりました。
2010年に袴田武史氏によって設立されたWhite Label Space Japan(後のispace)は、東北大学宇宙ロボティクス研究室などの日本チームを率いてローバー「Sorato」の開発に取り組みました。GLXPでの着陸こそ実現しませんでしたが、この経験が後の商業的な月面輸送ビジネスの基盤となりました。
2018年には9,000万ドル以上の資金調達に成功し、自社製ランダーの開発へと舵を切ります。また、米国のDraper Laboratoryらと共にNASAの「商業月面輸送サービス(CLPS)」プログラムに提案を行い、民間主導の月面探査という新たなステージへと進出しました。
Hakuto-Rプログラムの挑戦と教訓
ispaceが展開する「Hakuto-R」プログラムは、月面への輸送と探査を商業的に提供するための戦略的プロジェクトです。NASAが目指す月面インフラ構築に向けた水資源などの探索をサポートすることを目的としています。
ミッション1:初の試行
2022年12月に打ち上げられたミッション1では、アラブ首長国連邦のローバー「Rashid」や、JAXAとタカラトミーが開発した変形ロボット「Sora-Q」を搭載しました。しかし、2023年4月の着陸直前に通信が途絶。分析の結果、最終段階での推進剤不足によりハードランディング(激突)したことが判明しました。
ミッション2:文化の保存を掲げて
2025年1月に打ち上げられたミッション2では、ランダー「RESILIENCE」と小型ローバー「TENACIOUS」を投入しました。特筆すべきはユネスコとの提携で、人類の文化遺産として275の言語を記録した「メモリーディスク」を搭載し、地球外への保存を試みました。しかし、2025年6月の着陸試行において、再び通信が確立できず、月面への衝突に至ったと考えられています。

次世代の戦略:Mission 3以降の展望
相次ぐ着陸の困難を乗り越え、ispaceはより高頻度でコスト効率の高い輸送システムの確立へと計画をシフトしています。2026年以降の計画では、月面裏側のシュレーディンガー盆地への到達を目指すほか、欧州宇宙機関(ESA)が主導する月面探査ミッション「MAGPIE」への参画も決定しています。
2026年3月の組織再編により、従来のAPEX 1.0とSeries-3の設計を統合した新型ランダー「ULTRA」を発表しました。今後は、2027年以降に通信衛星の展開や、新型ランダーによる輸送ミッションを順次実施し、最終的には月面水資源の開発を可能にする「産業プラットフォーム」の構築を目指します。
| ミッション番号 | 宇宙機 | 予定時期 | 目的・備考 |
|---|---|---|---|
| 2.5 | Argo Space OTV Alpine | 2027年 | 月面通信サービス(Lunar Connect Service)用衛星 |
| 3 | ULTRA Lupine | 2028年 | 新型ULTRAランダーによる初のミッション |
| 4 | ULTRA 軌道衛星 3 & 4 | 2029年 | ESA主導のMAGPIEミッション |
| 5 | ULTRA 軌道衛星 5 | 2030年 | Team Draper 商業ミッション1(CLPS) |
Frequently Asked Questions
ispaceの主な目的は何ですか?
民間企業として月面への輸送サービスを提供し、月にある水などの天然資源を探索・マッピングし、将来的にそれらを活用できる産業基盤を構築することです。
Hakuto-Rミッション1と2の結果はどうでしたか?
どちらのミッションも月面への着陸を試みましたが、ミッション1は推進剤不足による激突、ミッション2は着陸後の通信確立ができず、結果としてハードランディングとなったと考えられています。
「ULTRAランダー」とは何ですか?
ispaceが開発したAPEX 1.0とSeries-3という2つのランダー設計を統合した新型の着陸船です。より効率的で汎用性の高い輸送を実現するために設計されました。
NASAやESAとどのような関係にありますか?
NASAのCLPS(商業月面輸送サービス)プログラムを通じて輸送契約を競い合ったり、ESA(欧州宇宙機関)の月面探査ミッション「MAGPIE」の開発を請け負ったりするなど、戦略的なパートナーシップを築いています。
月面でどのような資源を探しているのですか?
主に「月面水」などの資源に注目しています。これらは将来的に飲料水としてだけでなく、分解して水素と酸素にすることで、ロケットの燃料や呼吸用の酸素として利用できるため、月面拠点構築に不可欠です。
References
- Sarah Scoles (14 May 2018). "The Japanese Space Bots That Could Build Moon Valley". Wired. Retrieved 6 June 2025.
- "ispace Announces HAKUTO-R Mission 1 Launch Window for November 9 – 15, 2022". ispace. 12 October 2022. Retrieved 12 October 2022.
- "ispace – Expand our planet. Expand our future". ispace-inc.com. Retrieved 11 September 2018.
- "WLS Japan Office - Open For Business" (Press release). White Label Space. 9 September 2010. Retrieved 12 September 2018.
- Luxembourg and ispace, a Tokyo-Based Lunar Robotic ExplorationCompany, Sign MoU to Co-Operate within the Spaceresources.lu Initiative Business Wire Released by the Luxembourg Ministry of the Economy 2 March 2017
- Tweet: Upcoming 2nd lunar exploration mission, 16 December 2024.
- Mike Wall (6 June 2025). "Private Japanese spacecraft crashes into moon in 'hard landing,' ispace says". Space.com. Retrieved 6 June 2025.
- Dutch Firm AOES Group BV Partners with White Label Space Team in $30 Million Google Lunar X PRIZE, www.whitelabelspace.com 31 August 2009
- Andrew Barton. "Partners". www.whitelabelspace.com. Retrieved 25 March 2019.
- New fund to boost Japanese space startups Jeff Foust SpaceNews 21 March 2018