現代の企業にとって、膨大なソフトウェアライセンスとIT資産を正確に把握することは、コスト削減だけでなく、法的リスクの回避やセキュリティ強化の観点からも不可欠です。こうした課題を解決するための世界的な指針となるのが、ISO/IEC 19770ファミリーです。この規格群は、ソフトウェア資産管理(SAM)に特化したプロセスと技術的な標準を提供し、他の管理システム規格とも連携して企業のITガバナンスを支えています。

Key Facts

  • ISO/IEC 19770-1は、IT資産管理システム(ITAMS)の構築・運用に関するプロセス要件を定義している。
  • ISO/IEC 19770-2は、ソフトウェアを正確に識別するための「SWIDタグ」というデータ標準を規定している。
  • ISO/IEC 19770-3は、ライセンス権限(エンタイトルメント)を機械可読な形式で扱うためのスキーマを定義している。
  • ISO/IEC 19770-5は、ITAM全般の概要と共通語彙を提供している。

ITAMプロセスの基盤となるISO/IEC 19770-1

ISO/IEC 19770-1は、組織が企業ガバナンス基準に準拠したソフトウェア資産管理を行っていることを証明するためのフレームワークです。具体的には、IT資産管理システム(ITAMS)の導入、運用、維持、および継続的な改善に向けた要件を定めています。

物理的資産に主眼を置いたISO 55001とは異なり、19770-1はソフトウェア特有の性質に基づいた詳細な管理項目を設けています。特に以下の点に重点が置かれています。

  • ソフトウェアの複製、配布、修正に関する制御(アクセス権と整合性の確保)
  • IT資産への変更履歴および承認プロセスの監査証跡
  • ライセンスの過不足(アンダーライセンス・オーバーライセンス)の管理と規約遵守
  • クラウド利用やBYOD(個人所有デバイスの業務利用)に伴う責任分担の明確化
  • 財務システムなどの他システムとのデータ照合によるビジネス価値の検証

この規格は時代に合わせて進化しており、2006年の初版、2012年の第2世代(4つの段階的なティア構造を導入)を経て、2017年に現在のバージョンであるISO/IEC 19770-1:2017が発行されました。最新版ではISOの管理システム規格(MSS)形式に準拠した大幅な書き換えが行われ、以前のティア構造は付録へと移行されました。

技術的標準:識別と権利のデジタル化

ソフトウェア識別タグ(ISO/IEC 19770-2)

ISO/IEC 19770-2は、インストールされたソフトウェアやフォントなどのライセンス対象物を一意に特定するためのSWID(Software Identification)タグというデータ標準を定めています。2009年に初版が発行され、2015年に改訂されました。

SWIDタグを活用することで、ツールがソフトウェアの正規名称や値を正確に認識できるようになります。これにより、パッチ管理、ヘルプデスク運用、ポリシー遵守の確認といったITプロセス全体のコスト削減と精度向上が期待できます。

ソフトウェア権利スキーマ(ISO/IEC 19770-3)

ISO/IEC 19770-3は、ライセンスの条件や権利、制限事項を機械が読み取り可能な標準形式でカプセル化する「エンタイトルメント(権利)タグ」について規定しています。2016年に発行されたこの規格は、特定のデータ転送形式(XMLやJSONなど)を強制するのではなく、ベンダーと顧客、ツール提供者の間で共通のスキーマ(データ構造)を持たせることに主眼を置いています。

この規格の設計には、過去のライセンス取引情報を最大限に活用できる「互換性」と、ISO/IEC 19770-2(識別タグ)との「整合性」という2つの原則が取り入れられています。これにより、識別データと権利データを組み合わせて効率的に管理することが可能になります。

ISO/IEC 19770 規格ファミリーまとめ

ISO/IEC 19770 各パートの役割一覧
規格番号 名称・焦点 主な目的
19770-1 プロセス(ITAMS) 管理システムの構築・運用・改善プロセスの定義
19770-2 ソフトウェア識別タグ(SWID) インストール済みソフトの正確な識別データの標準化
19770-3 権利スキーマ(ENT) ライセンス権利の機械可読な形式での定義
19770-5 概要と語彙 ITAM全般の基本概念と用語の定義

Frequently Asked Questions

ISO/IEC 19770-1とISO 55001の違いは何ですか?

ISO 55001は物理的な資産管理全般を対象としていますが、ISO/IEC 19770-1はソフトウェア特有の性質(ライセンス遵守、複製制御、クラウド利用など)に特化したより詳細な要件を提供しています。

SWIDタグを導入するメリットは何ですか?

ソフトウェアの正規名称と値を統一して管理できるため、資産の棚卸し精度が向上します。結果として、セキュリティパッチの適用漏れ防止や、ライセンス監査への対応コスト削減につながります。

ISO/IEC 19770-3はどのような形式でデータを保存しますか?

この規格ではXMLやJSONなどの特定の転送形式を規定していません。重要なのは、データの意味や名称などのスキーマを標準化し、異なるツール間でもライセンス権利情報を共通に理解できるようにすることです。

最新のISO/IEC 19770-1ではどのような変更がありましたか?

2017年版では、ISOの管理システム規格(MSS)形式に準拠するように全面的に書き直されました。また、以前のバージョンにあった段階的なティア構造は、本文から付録へと移動されました。