硫酸鉄(II)(英名:Iron(II) sulfate)は、鉄イオンと硫酸イオンからなる塩の一種であり、化学式 FeSO4 · xH2O で表されます。古くから「緑礬(りょくばん)」や「コッパラス」という名称で知られており、自然界にも存在する化合物です。特に7つの水分子が結合した「七水和物」の形態が最も一般的で、青緑色の結晶として観察されます。
水に溶解すると、正八面体構造を持つパラ磁性の水和錯体 [Fe(H2O)6]2+ を形成します。この物質は、現代においても医療、工業、農業など非常に幅広い分野で不可欠な役割を果たしています。

Key Facts
- 主要な形態: 最も一般的なのは青緑色の七水和物(FeSO4 · 7H2O)である。
- 医療上の重要性: WHOの必須医薬品リストに含まれ、鉄欠乏症の治療や予防に用いられる。
- 化学的性質: 穏やかな還元剤として機能し、有機合成や工業的な還元処理に利用される。
- 農業利用: アルカリ性土壌のpH値を下げ、植物の鉄クロロシス(鉄欠乏による黄化現象)を改善する。
- 歴史的背景: 中世から18世紀まで、没食子インク(アイアンガロールインク)の主原料として使用されていた。
物理的・化学的特性
硫酸鉄(II)は、含有する水分子の数(水和状態)によって、その外観や物理的性質が大きく変化します。無水物(水を含まない状態)は白色の結晶ですが、水和が進むにつれて色調が変化し、七水和物になると特徴的な青緑色を呈します。

熱を加えると、まず結晶水が失われて白色の無水物へと変化し、さらに加熱(約680°C以上)を続けると分解が始まります。この熱分解プロセスでは、二酸化硫黄(SO2)と三酸化硫黄(SO3)が放出され、最終的に赤褐色の酸化鉄(III)(Fe2O3)が残ります。

水和状態による特性比較
| 形態 | 化学式 | 外観 | 密度 (g/cm3) | 融点/分解点 |
|---|---|---|---|---|
| 無水物 | FeSO4 | 白色結晶 | 3.65 | 680 °C (分解) |
| 一水和物 | FeSO4 · H2O | 白黄色結晶 | 3.0 | 300 °C (分解) |
| 七水和物 | FeSO4 · 7H2O | 青緑色結晶 | 1.895 | 60 °C (分解) |

多角的な活用シーン
医療および健康管理
硫酸鉄(II)は、人体における鉄分補給の主要な手段として利用されています。特に鉄欠乏性貧血の治療や予防において極めて重要であり、米国では年間700万件以上の処方があるほど普及している医薬品です。
工業および化学合成
工業的には、他の鉄化合物を製造するための前駆体として利用されます。また、その還元力を活かし、セメントに含まれる毒性の高いクロム酸イオンを、より毒性の低いクロム(III)化合物へ還元させる処理にも用いられます。さらに、フェントン試薬の鉄触媒成分としても活用されています。
園芸と農業
土壌改良剤として、アルカリ性が強い土壌のpH値を下げるために使用されます。これにより、植物が栄養素を吸収しやすい環境を整えます。また、芝生のコンディショナーや、ゴルフ場のグリーンにおける特定の苔(シルバリースレッドモス)の除去にも効果を発揮します。
芸術と伝統工芸
歴史的に、硫酸鉄(II)はインクの製造に欠かせない材料でした。特に中世から多用された没食子インクは、この物質とオークガールの反応を利用しています。また、木材(カエデなど)を銀色に染める技法や、コンクリートを錆色に染色する用途でも利用されています。
製造方法と反応
現代の工業的な製造において、硫酸鉄(II)は主に鉄鋼業の副産物として得られます。鋼板の表面処理(酸洗)工程で硫酸が使用される際、鉄が溶解して大量の硫酸鉄(II)が生成されます。
また、黄鉄鉱(パイライト)の酸化反応や、より反応性の高い金属を硫酸鉄溶液に浸漬させる置換反応によっても合成が可能です。例えば、硫酸銅溶液に鉄を反応させると、銅が析出し、硫酸鉄(II)が生成されます。
安全性と取り扱い
硫酸鉄(II)の取り扱いには注意が必要です。GHS分類では「警告」の信号語が割り当てられており、飲み込んだ場合の有害性(H302)、皮膚刺激(H315)、および強い眼刺激(H319)が指摘されています。取り扱う際は、保護手袋や保護眼鏡などの適切な個人用保護具(PPE)の着用が推奨されます。

Frequently Asked Questions
硫酸鉄(II)と硫酸鉄(III)の違いは何ですか?
主な違いは鉄イオンの酸化数です。硫酸鉄(II)は鉄が+2価の状態であり、還元剤として機能します。一方、硫酸鉄(III)は鉄が+3価の状態であり、化学的性質や用途が異なります。
なぜ「緑礬」と呼ばれているのですか?
「礬(ばん)」は古くから水和した硫酸塩鉱物を指す言葉でした。硫酸鉄(II)の七水和物が美しい青緑色の結晶を持つため、その色から「緑色の礬」という意味で緑礬と呼ばれています。
植物に与えるとどのような効果がありますか?
アルカリ性土壌のpHを下げて栄養吸収を助けるほか、葉が黄色くなる「鉄クロロシス」の治療に有効です。緩効性の肥料として土壌に混ぜ込むことで、長期的な鉄分供給が可能です。
医療用として使用する際の注意点はありますか?
鉄欠乏症の治療に非常に有効ですが、過剰摂取は有害であるため、必ず医師の処方と指導に基づいて使用する必要があります。
どのような化学反応で分解しますか?
加熱すると、まず結晶水を放出して無水物となり、さらに高温(約680°C)になると分解して、酸化鉄(III)と二酸化硫黄、三酸化硫黄のガスを生成します。
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