世界中の出版社のネットワークとして活動する国際出版協会(IPA)は、知的な表現の自由と著作権の保護を追求する国際的な組織です。1896年にフランスのパリで設立されて以来、時代の変化に合わせてその役割を広げ、現代では検閲への反対やリテラシーの向上、そして持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みなど、多岐にわたる活動を展開しています。
Key Facts
- 設立: 1896年(フランス・パリ)
- 本部: スイス・ジュネーブ
- 核心的使命: 著作権の促進と「出版の自由」の保護
- 主要な賞: プリ・ヴォルテール賞(旧:出版の自由賞)
- 現在の会長: カリン・パンサ(Karine Pansa)
IPAの歴史と変遷
IPAの前身は「Congrès international des éditeurs(国際出版社会議)」であり、初期から出版業界が直面する技術的・政治的課題に取り組んできました。1936年のロンドン会議では、音声録音技術の台頭が読書習慣に与える影響について議論されるなど、新技術への危機感と適応がテーマとなっていました。
しかし、政治的な激動も組織に影響を与えました。1938年のドイツでの会議開催を巡っては、ナチス党の台頭により米国が抗議して脱退するなど、深刻な対立が生じました。第二次世界大戦中は、拘束された会員の解放活動や難民支援に注力し、戦後の1954年にチューリッヒで現在の「国際出版協会(IPA)」という名称に改称されました。その後、1962年に本部はジュネーブへと移転しています。
出版の自由と人権の擁護
IPAは、世界人権宣言第19条や市民的及び政治的権利に関する国際規約などの国際的な人権基準に基づき、表現の自由を強力に支持しています。特に、検閲に反対し、出版者が不当に拘束されることを防ぐための活動に力を入れています。
2004年からは、表現の自由への侵害を監視する国際組織「IFEX(International Freedom of Expression Exchange)」と連携。世界80カ国以上の加盟組織によるネットワークを通じて、投獄されたジャーナリストの解放や、メディアへの弾圧に対するキャンペーンを展開しています。
プリ・ヴォルテール賞による顕彰
勇気を持って出版の自由を擁護した個人や団体を称えるため、2005年から「出版の自由賞」を授与しており、2016年に「プリ・ヴォルテール賞(Prix Voltaire)」へと名称変更されました。また、2022年には「チャンピオン賞」と「イノベーション賞」という2つの新たな賞を設立し、多角的な視点から業界の貢献者を評価しています。
グローバルな課題へのアプローチ
IPAの活動は、単なる権利擁護に留まらず、業界の標準化や社会課題の解決にも及んでいます。
- 持続可能な開発(SDGs): 2020年に国連と協力して「SDG Publishers Compact」を立ち上げ、出版業界が持続可能な開発目標にどのように寄与できるかを明確にしたレポートを公開しました。
- 税制の改善: 書籍の普及を促進するため、付加価値税(VAT)などの間接税において、書籍を「ゼロ税率」とするなどの優遇措置を各国政府に働きかけています。
- 教育と文化の流通: ユネスコ(UNESCO)と協力し、教育・科学・文化資料の輸入に関する関税免除を定めたフィレンツェ協定やナイロビ議定書の支持を通じて、知識の自由な流通を促進しています。
論争と対立の歴史
一方で、権利の解釈を巡る対立もありました。2000年代には、国連で議論された「宗教の誹謗中傷」に関する決議に対し、それが正当な批判まで抑制し、表現の自由を侵害する恐れがあるとして、PENインターナショナルと共に反対を表明しました。
また、視覚障害者の著作物へのアクセスを巡っては、世界盲人連合(WBU)と世界知的所有権機関(WIPO)のプラットフォームで議論が行われましたが、著作権保護とアクセシビリティのバランスを巡る見解の相違から、2011年にWBUがプラットフォームから脱退するという経緯があります。
組織概要と運営体制
IPAは、著作権委員会、出版の自由委員会、リテラシー・書籍産業政策委員会、国際教育出版社フォーラムなどの専門委員会を設置し、戦略的な運営を行っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主要目的 | 著作権の促進、出版の自由の保護、リテラシーの向上 |
| 運営拠点 | スイス、ジュネーブ(23, avenue de France) |
| 主要活動 | 出版者会議の開催、国際標準の策定、人権団体との連携 |
| 特筆すべき実績 | 女性会長の誕生(アナ・マリア・カバネージャス、ボドゥール・アル・カシミ) |
Frequently Asked Questions
IPAの主な目的は何ですか?
主に「著作権の促進」と「出版の自由の保護」という2つの柱を掲げています。検閲に反対し、世界中の人々が自由に情報を得て、出版者が安全に活動できる環境を整えることを目的としています。
プリ・ヴォルテール賞とはどのような賞ですか?
世界中で勇気を持って出版の自由を擁護し、促進した個人や団体に贈られる賞です。賞金と証明書が授与され、表現の自由のために闘う人々への敬意を表しています。
SDGsに対してどのような取り組みを行っていますか?
2020年に国連と共同で「SDG Publishers Compact」を立ち上げました。出版業界が持続可能な開発目標(SDGs)にどのように貢献できるかを分析したレポートを公開し、具体的なアクションを推進しています。
書籍の税制についてどのような主張をしていますか?
知識の普及を妨げないよう、あらゆる形式の出版物に対して付加価値税(VAT)などの間接税を免除、あるいは「ゼロ税率」にすることを推奨しています。
IPAはどのような組織と連携していますか?
ユネスコ(UNESCO)や、表現の自由を監視するIFEX(International Freedom of Expression Exchange)、PENインターナショナルなど、人権や文化、教育に関する国際的な組織と密接に連携しています。
References
- Anderson, Porter (6 January 2023). "Interview With Brazil's Karine Pansa: IPA's New President". Publishing Perspectives.
- Spruijt, Herman (2009). "Peer Review: The International Publishers Association: A Pivotal Player in Today's Global Publishing Industry". Logos. 20 (1–4): 217–227. :10.1163/095796509X12777334632861.
- "International Publishers Congress returns to India after 25 years". All About Book Publishing. 7 February 2018. Retrieved 1 August 2023.
- "Freedom to Publish – The spectrum and the challenge of international action". International Publishers Association. 29 June 2018. Retrieved 1 August 2023.
- Nawotka, Ed (May 23, 2023). "Iraqi Publisher Wins IPA's Prix Voltaire, Slain Ukrainian Author Honored". Publishers Weekly.
- Anderson, Porter (10 November 2022). "The IPA's Congress in Jakarta: So Many Issues". Publishing Perspectives.
- Nawotka, Ed (Nov 10, 2022). "International Publishers Association Gathers the World in Jakarta". PublishersWeekly.com.
- Cottenet, Cécile (7 April 2017). Literary Agents in the Transatlantic Book Trade: American Fiction, French Rights, and the Hoffman Agency. Taylor & Francis. p. 22. .
- Congresses Tentative Chronological and Bibliographical Reference List of National and International Meetings of Physicians, Scientists, and Experts SECOND SUPPLEMENT FOURTH SERIES INDEX – CATALOGUE UNITED STATES ARMY (ARMY MEDICAL LIBRARY). WASHINGTON: UNITED STATES GOVERNMENT PRINTING OFFICE. 1938.
- Davies, Thomas (11 January 2014). NGOs: A New History of Transnational Civil Society. Oxford University Press. p. 52. .