Protesters waving Hong Kong colonial flag outside the Chinese Hong Kong Liaison Office in 2019
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『香港民族論』が揺さぶったアイデンティティと政治的波紋

🗓 2026年8月7日

2014年、香港の政治的緊張が高まる中で出版された一冊の本が、社会に大きな衝撃を与えました。香港大学学生会の機関誌『Undergrad』が編集した香港民族論(Hong Kong Nationalism)は、単なる学生の著作を超え、香港人のアイデンティティと自決権を問う象徴的な議論の火種となりました。

本書は、学生や学者、評論家による9つの論文をまとめたもので、香港における「ナショナリズム(民族主義)」の必要性を論じています。当初は学術的な議論を目的としていましたが、政府による激しい批判を受けたことで、皮肉にも一般市民の間で爆発的な注目を集めることとなりました。

Key Facts

  • 出版主体: 香港大学学生会(機関誌『Undergrad』編集)
  • 出版時期: 2014年9月
  • 主な主張: 香港独自のアイデンティティの確立と、自決権の必要性
  • 転換点: 2015年の梁振英(リョン・チュンイン)行政長官による公的な批判
  • 現状: 2020年の国家安全法施行後、公立図書館から撤去され事実上の禁書状態に

誕生の背景:高まる「ローカリズム」の潮流

本書が編纂された背景には、2013年頃から勢いを増していた「Occupy Central with Love and Peace(愛と平和による中心地占拠)」などの民主化運動がありました。当時の学生たちの間では、中国本土の民主化を待つのではなく、香港独自の視点に立つローカリズム(地域主義)への関心が高まっていました。

香港大学で行われた世論調査では、中国政府が認めない場合であっても、独立に関する住民投票を支持する学生が37%に達したという結果が出ています。こうした「運命自決」の機運が、本書の執筆を後押ししました。

もともとは雑誌の特集記事として企画されましたが、ひまわり学生運動などの影響を受けて内容を修正し、ジョンズ・ホプキンス大学の准教授を含む外部専門家の寄稿を加えたことで、172ページに及ぶ一冊の書籍として結実しました。

議論を呼んだ収録論文の内容

本書は、社会保障制度から文化論、政治哲学まで多角的な視点から香港の在り方を考察しています。

『香港民族論』の主な構成と論点
執筆者 主なテーマ・論点
ブライアン・リョン(Brian Leung) 社会保障制度の受給資格緩和とローカリズム政治の関係
ウォン・チュンキット(Wong Chun-kit) 香港人の抵抗手段としてのローカリズムの必然性
ジェイミー・チョ(Jamie Cho) 香港人の背後にある文化体系の考察
ジャック・リー(Jack Li) 民族自決権を香港が持つべきかという問い
外部寄稿者(呉叡人、練乙錚など) 歴史的視点からのナショナリズム批判や、都市国家としての可能性

政府の介入と「逆説的なブーム」

出版当初、本書は主に学術的な圏内で読まれており、一般への浸透は緩やかでした。しかし、2015年1月の施政演説において、当時の梁振英行政長官が本書を名指しし、「誤った論理を広めている」と強く批判したことで状況が一変します。

Leung Chun-ying in 2015

政府による異例の攻撃は、学生たちの表現の自由を侵害するものとして反発を招きました。同時に、この批判が強力な宣伝効果となり、書店では在庫が底をつき、数千部が追加増刷されるという現象が起きました。学生側は「独立を煽る意図はなく、アイデンティティに関する学術的議論を深めるためだ」と反論しましたが、一部の編集者は将来的に独立が現実的な選択肢になり得ると示唆しました。

国家安全法による終焉とその後

本書が巻き起こした議論は、その後の2019年における逃亡犯条例改正案反対デモなどの激しい抗議活動へと繋がっていきます。

Protesters waving Hong Kong colonial flag outside the Chinese Hong Kong Liaison Office in 2019

しかし、2020年に中国政府が「国家安全法」を導入したことで、分断や転覆を企てる行為が厳格に禁じられました。これに伴い、香港政府は公立図書館の蔵書を精査し、2021年5月には『香港民族論』が棚から撤去されました。

本書に関わった人物たちの運命も分かれました。編集に携わったブライアン・リョン氏は、2019年の立法会(議会)への乱入事件後に米国へ逃れ、国外から自治を訴えています。一方で、ジャック・リー氏は後に分離主義を非現実的であるとして否定し、穏健派へと転向しました。

Brian Leung stormed the Legislative Council on 1 July 2019

Frequently Asked Questions

『香港民族論』は具体的に何を主張した本ですか?

香港人が中国本土とは異なる独自のアイデンティティを持つことを認め、自分たちの運命を自分たちで決定する「自決権」や「ローカリズム」の重要性を学術的に論じた書籍です。

なぜこの本が政府に激しく批判されたのですか?

当時の梁振英行政長官が、本書の内容が「香港独立」という分離主義的な考えを促進し、社会に混乱や無政府状態をもたらす危険があると考えたためです。

政府の批判によって本はどうなりましたか?

皮肉にも政府の批判が注目を集める結果となり、一時的に書店で完売するほどのベストセラーとなりました。しかし、その後の政治状況の変化により、現在は公立図書館から排除されています。

現在、香港でこの本を読むことはできますか?

2020年に施行された国家安全法により、分離主義を助長する内容とみなされる書籍は取り締まりの対象となっており、公的なルートでの入手や所持には法的リスクが伴う状況にあります。

References

  1. The Hong Kong government translated the title as "Hong Kong people deciding their own fate"
  2. 綜援撤限爭議與本土政治共同體
  3. 本土意識是港人抗爭的唯一出路
  4. 香港人的背後是整個文化體系
  5. 香港是否應有民族自決的權利?
  6. The Lilliputian Dream:關於香港民族主義的思考筆記
  7. 與學苑同學談香港人和香港人意識
  8. 殘缺的國族 自決的城邦 二十世紀中國民族國家建構困境下的香港問題
  9. 城邦述事:香港本土意識簡史
  10. 本土思潮的幾點釋疑

📸 フォトギャラリー

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Leung Chun-ying in 2015
Brian Leung stormed the Legislative Council on 1 July 2019