ホームレス問題への法的アプローチ:支援と排除の境界線

世界各地でホームレス状態にある人々への対応は、大きく分けて2つの対照的な方向性を持っています。一つは、住居の確保や再定住を目的とした人道的支援を重視するアプローチであり、もう一つは、公共空間からの排除や、路上生活そのものを犯罪化しようとするアプローチです。これらの法整備の背景には、住居を単なる個人の状況ではなく、基本的人権として捉えるかどうかの視点の違いがあります。

Key Facts

  • ホームレス対策法は「再定住支援」と「強制収容・犯罪化」の2極に分かれる。
  • スコットランドは、優先順位を設けずすべての人に一時的・永続的な住居を提供する世界的に強力な権利を確立している。
  • 米国では、障害者法(ADA)や公正住宅法が間接的にホームレスの人々の権利を保護している。
  • 「排除アート(Anti-homeless architecture)」により、物理的に路上での睡眠や休息が困難な都市設計が進んでいる。
  • ハンガリーなど一部の国では、公共空間での睡眠が憲法レベルで犯罪化されている。

人権としての住居:国際的な視点

1948年の世界人権宣言以降、住居や移動の自由は、個人の自己決定権の一部である「人権」として認識されるようになりました。これは、第二次世界大戦後の極端な格差社会への反省から生まれた流れです。1998年の「人間の義務と責任に関する宣言」でも、組織的な人権侵害を防ぐための共同責任が強調されており、現代のホームレス研究はこの歴史的文脈に基づいています。

各国における支援策の展開

多くの国では、国家がホームレスの人々を支援し、住居を提供すべきであるという法整備が進められてきました。

イギリスとウェールズの取り組み

イギリスでは歴史的に、1834年の救貧法改正により労働者に住居を提供していましたが、当時は申請を抑制するためにあえて劣悪な環境の「ワークハウス」が運営されていました。しかし現代では、2017年のホームレス削減法により、地方自治体はホームレス状態の防止と支援を行う義務を負っています。ウェールズでは2014年の法改正により、以前のような「優先順位(主に子供連れの家族)」という制限をなくし、予防的な支援に注力したことで、高額な緊急宿泊施設の利用を減らすなどの効率化を実現しました。

スコットランドの先進的な権利保障

スコットランドは世界で最も強力なホームレス権利を保障している地域の一つです。2003年の法律で「非自発的なホームレス」への永続的な住居提供を目標に掲げ、2013年には債務相談や予算管理、新生活への適応支援など、包括的なサポートを自治体に義務付けました。特筆すべきは、支援の優先順位を撤廃し、すべての人に一時的または永続的な住居へのアクセス権を与えた点です。

アメリカ合衆国の法的枠組み

米国では、特定の法律が間接的にホームレスの人々を保護しています。1968年の公正住宅法は、人種や宗教、障害による差別を禁じており、低所得のホームレスの人々にとっても恩恵となりました。また、1990年の障害者法(ADA)は、特別なニーズを持つ人々への適切な住居提供を定めています。さらに、1987年のマキニー・ベント法に基づくプログラム(ACCESSなど)では、深刻な精神疾患や薬物依存を抱える人々への専門的な支援が行われました。

排除と犯罪化のメカニズム

一方で、ホームレス状態にある人々が陥りやすい状況を法的に罰したり、物理的に排除したりする動きも存在します。

行動の犯罪化

公共の場での睡眠や座り込みの制限、不法侵入法の強化、物乞いの禁止などがその例です。例えば、イギリスの1824年浮浪法は、現在でも路上生活者を移動させるための手段として利用されています。また、米国の一部の自治体では、ホームレスの人々に食事やシェルターを提供することを犯罪とする条例や、公共シャワーでの石鹸使用を禁じるなどの極端な規制が見られます。

欧州では、2021年の欧州人権裁判所が、ジュネーブの物乞い禁止条例について人権侵害であるとの判決を下しました。対照的にハンガリーでは、公共空間での睡眠が違法とされ、罰金や禁錮刑が科せられます。このような犯罪化は、ホームレスの人々に対する暴力への寛容さを高めるという研究結果も報告されています。

A man sleeps on the street.

排除アート(敵対的建築)

法的な規制だけでなく、都市設計によって物理的に排除する「排除アート」という手法が広がっています。これは、特定の行動を困難にすることで、ホームレスの人々を公共空間から遠ざける戦略です。

  • ベンチに仕切りを設け、横になることを防ぐ。
  • 平らな面にスパイクやボルトを設置し、睡眠を不可能にする。
  • 縁(ふち)に金属製のバーを設置し、座ることを制限する。
  • 公園に大きな岩を配置し、テント設営を防ぐ。
Anti-homeless spikes on a shop ledge.

社会的な認識と政策への影響

ホームレスの人々に対する一般市民の感情は、複雑な矛盾を抱えています。米国での調査によると、多くの人々が連邦政府によるホームレス支援予算の増額を支持している一方で、自分の近所に支援施設ができることには反対するという傾向があります。

この背景には、衛生状態の悪化による外見的な不快感(嫌悪感)が、心理的な距離感を生み、結果として排除的な政策を後押しするという構造があります。また、「薬物依存」や「前科」といったステレオタイプな認識が、彼らを社会から切り離す要因となっています。

まとめ:ホームレス支援の現状

主要国・地域におけるホームレス対策の傾向
地域 主なアプローチ 特徴的な法整備・傾向
スコットランド 権利保障型 優先順位を設けず、すべての人に住居提供を目指す。
ウェールズ 予防重視型 ホームレス状態になる前の早期介入を義務化。
アメリカ 混合型 障害者法等による保護の一方で、一部自治体で厳しい規制。
ハンガリー 犯罪化型 公共空間での睡眠を違法とし、罰金や禁錮を科す。

Frequently Asked Questions

ホームレスの「犯罪化」とは具体的に何を指しますか?

路上での睡眠、座り込み、物乞いなどの生存に必要な行為を法律や条例で禁止し、罰金や逮捕の対象とすることを指します。これにより、支援ではなく処罰による排除が行われることになります。

「排除アート(敵対的建築)」とはどのようなものですか?

ベンチに肘掛けをたくさん設置して横になれないようにしたり、壁にスパイクを付けたりして、ホームレスの人が休息できないように設計された都市デザインのことです。

スコットランドの制度が「世界的に強力」と言われる理由は?

多くの国では「子供連れ」などの優先順位を設けて支援しますが、スコットランドではその区別をなくし、誰であっても一時的または永続的な住居を得る権利を認めているためです。

人権としての「住居権」はどのように考えられていますか?

住居を単なる個人の経済的な問題ではなく、人間が尊厳を持って生きるために不可欠な基本的人権として捉える考え方です。世界人権宣言などの国際的な枠組みがその根拠となっています。

一般市民はホームレス支援にどのような意識を持っていますか?

予算増額などの大枠の支援には賛成する人が多い一方で、自身の居住エリアへの施設設置には抵抗感を示す「NIMBY(Not In My Back Yard)」的な傾向や、衛生面への嫌悪感が排除的な意識につながっている側面があります。