鉄道の登場は物流と移動に革命をもたらしましたが、同時に多額の現金や貴金属を運ぶ「動く金庫」という新たな犯罪ターゲットを生み出しました。19世紀の英国からアメリカの荒野、そして現代の貨物列車に至るまで、列車強盗は時代と共にその形態を変えながら世界各地で発生してきました。
主要な事実(Key Facts)
- 米国のピーク: 1890年代に最盛期を迎え、カリフォルニア、ミズーリ、テキサス、オクラホマ州で多発した。
- 抑止の要因: 通信技術(電話・無線)の普及、列車の高速化、専門捜査機関の導入により激減した。
- 人的被害: 初期は暴力的な手法が多く、ダイナマイトの使用や脱線事故による死傷者が後を絶たなかった。
- 現代の傾向: 現代では現金よりも、コンテナ内の配送パッケージなどの貨物窃盗へと移行している。
19世紀英国における初期の列車強盗
鉄道犯罪の歴史は、19世紀半ばの英国でも顕著でした。1849年にはグレート・ウェスタン郵便列車強盗事件が発生し、元鉄道職員のヘンリー・プールらが関与したことで注目を集めました。また、1855年にはロンドンからフランスへ向かう列車から12,000ポンド相当の金が奪われた「1855年大金強盗事件」が起きています。
アメリカ西部開拓時代の無法者たち
「列車強盗」という言葉から多くの人が連想するのが、アメリカの西部開拓時代でしょう。ジェシー・ジェームズやブッチ・キャシディといった伝説的な無法者たちが名を馳せました。一般的にジェシー・ジェームズが初の成功例と言われがちですが、実際には1866年にレノ・ギャングがインディアナ州で起こした事件が、平時における米国初の列車強盗とされています。

1890年代にピークを迎えたこれらの犯罪は、単なる窃盗に留まらず、ダイナマイトによる金庫の爆破や列車の脱線など、極めて危険な手法が用いられました。しかし、20世紀に入ると状況は一変します。鉄道会社は、盗まれた金額の5倍に相当する費用を投じて捜査と防止に当たり、ピンクートン探偵社のような専門組織が犯人を執拗に追跡したため、犯罪のハードルが飛躍的に上がりました。

1923年には「最後の大きな列車強盗」と呼ばれるドートレモン兄弟による事件が起きましたが、ダイナマイトの分量を誤ったことで大爆発が発生し、4名が死亡するという悲劇的な結末を迎えました。これにより、米国の犯罪者は次第に列車ではなく銀行へと標的を移していきました。
20世紀以降の世界的な展開と変遷
20世紀に入ると、米国以外の地域でも散発的に事件が発生しました。ポーランドのロゴフ襲撃(1906年)やインドのカコリ列車強盗(1925年)などが挙げられます。特に当時のエジプトでは、貧困と社会的不平等、そして警察力の不足から列車強盗が蔓延し、1893年に鉄道警察が創設されるまで深刻な社会問題となっていました。

英国で最も有名な事件は、1963年にバッキンガムシャーで起きた「大列車強盗事件」です。グラスゴーからロンドンへ向かう郵便列車から230万ポンド以上の小包が奪われ、逮捕されたメンバーには合計307年という極めて重い禁錮刑が言い渡されました。


21世紀の現代的な列車窃盗
現代において、かつてのような「武装集団による列車停止」は稀ですが、貨物窃盗という形で犯罪は続いています。メキシコでは2011年に列車窃盗が前年比120%増加し、特に中南部地域で深刻化しています。また、インドでは2016年に列車屋根に穴を開けて多額の現金を盗み出す巧妙な手口が報告されました。
米国ロサンゼルスでは2021年、配送コンテナのロックをボルトカッターで切断し、中身のパッケージを盗み出す手口が横行しました。1日平均90個のコンテナが被害に遭い、数百万ドルの損失が出たため、警察が特別タスクフォースを編成する事態となりました。
列車強盗の概要まとめ
| 時代・地域 | 主な標的 | 特徴的な手法・背景 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| 19世紀 英国 | 郵便物・金 | 内部協力者による犯行 | 法執行機関の強化 |
| 西部開拓時代 米国 | 現金・金庫 | ダイナマイト、脱線、武装強襲 | 専門探偵社の導入、通信網の整備 |
| 20世紀中盤 世界 | 郵便・貨物 | 組織的な計画犯行(例:1963年英国) | 厳罰化、セキュリティ向上 |
| 21世紀 現代 | 配送パッケージ・貨物 | コンテナ切断、屋根への穴あけ | 特別タスクフォースの編成 |
フィクションにおける列車強盗
列車強盗は、そのドラマチックな展開から映画や小説の格好の題材となってきました。1903年の映画『大列車強盗』は、1896年の舞台作品に触発されて制作されました。また、『ブッチ・キャシディとサンダンス・キッド』や『アサシン・オブ・ジェシー・ジェームズ』など、実在の無法者をモデルにした作品が多く作られています。


よくある質問(FAQ)
米国で最初の列車強盗は誰が起こしたのですか?
一般的にジェシー・ジェームズと思われがちですが、平時における米国初の列車強盗は1866年にレノ・ギャングがインディアナ州で起こした事件とされています。
なぜ20世紀初頭に列車強盗が激減したのですか?
列車の高速化により乗り込みが困難になったこと、電話や無線の普及で通報と対応が迅速化したこと、そしてピンクートン探偵社のような専門組織による執拗な追跡と厳罰化が進んだことが主な要因です。
列車強盗による人的被害はどの程度だったのでしょうか?
非常に深刻でした。1866年から1930年の米国での調査では、約13.5%の事件で死者が出ており、強盗による脱線事故で27名が死亡した事例もあります。
現代でも列車強盗は起きているのですか?
はい。ただし、かつてのような武装強襲ではなく、メキシコやインドでの貨物窃盗や、米国ロサンゼルスでの配送コンテナからのパッケージ盗難といった形態に変化しています。
References
- , p. 334.
- , p. 336.
- "Vtbt Vreb hues". The Spectator. January 6, 1849. pp. 6–7. Retrieved November 13, 2015.
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- UK Prison Commission Records 1770-1951 via Ancestry.com
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