ウェールズにおけるイスラム教の歴史と展開
ウェールズとイスラム世界との接点は、想像以上に古く、そして多様な形で見られます。12世紀という早い段階からその交流の痕跡は残されており、単なる宗教的な広がりだけでなく、芸術や言語、そして地域社会の形成に深く関わってきました。本記事では、中世の断片的な記録から現代のコミュニティ形成まで、ウェールズにおけるイスラム教の歩みを辿ります。
主要な事実(Key Facts)
- 最古の痕跡: 12世紀まで遡るイスラム世界との接触記録がある。
- 芸術的影響: 19世紀、イスラム教に改宗した貴族により、複数の教会に幾何学模様のステンドグラスが導入された。
- 言語的展開: 19世紀後半にウェールズ語訳のコーランが刊行・掲載された。
- 初のモスク: 1947年にカーディフに「ピーリスตรี・モスク」が建設された。
- 現代の組織: 21世紀に入り、コンバート支援やコミュニティ代表としての組織が相次いで設立された。
初期の接触と文化的影響
ウェールズにおけるイスラム教の初期の存在は、物理的な遺物によって証明されています。例えば、ランゴレン近郊のヴァレ・クルシス修道院の壁からは、隠されていたコーランが発見されました。また、アングルシー島の教会に見られるイスラム様式の影響を受けたステンドグラスも特筆すべき点です。
これらの装飾は、1859年にイスラム教へ改宗したヘンリー・スタンリー(第3代オールダーリー男爵スタンリー)による教会改修の結果です。ランバドリグやニューボローの聖ピーター教会など、複数の教会にイスラム特有の幾何学的なパターンが取り入れられました。
言語への浸透と個人の信仰
19世紀後半になると、知的・政治的な急進主義を持つ著者たちによって、聖典コーランのウェールズ語訳が進められました。ジョセフ・ハリーやジョン・ティウィ・ジョーンズらが主導し、アベルデアレで出版されたほか、『Y Gwladgarwr』(1879年)や『Tarian y Gweighirt』(1882年)といった新聞でも全文が掲載されました。
また、個人の改宗例として、1891年にインド人ムスリムと結婚し改宗したハディジャ・アメリア・ブクシュ(旧姓デイヴィス)が挙げられます。彼女は結婚から2年後に急逝しましたが、カーマーゼンシャーのプウル・トラップにあるベスレヘム礼拝堂にイスラムの伝統に従って埋葬されました。これはウェールズにおける最初期のイスラム教徒の埋葬例と考えられています。
港湾都市からのコミュニティ形成
19世紀半ば以降、ウェールズの港湾都市には、ソマリアやイエメンから来た船乗りたちが定住し始めました。特にカーディフのビュートタウン地区をはじめ、スウォンジーやモスティンなどの港町にムスリム人口が蓄積されていきました。
こうした人口増に伴い、1947年にはカーディフにウェールズ初の専用モスクである「ピーリスตรี・モスク」が完成しました。当初はミナレットを備えた伝統的なドーム構造でしたが、1988年に現在のレンガ造りの建物へと再開発されました。
21世紀における組織化と発展
現代のウェールズでは、信仰のサポート体制や社会的地位の向上が進んでいます。2001年には、改宗者とその家族への助言や、モスクによる布教(ダアワ)活動を支援する「ニュー・ムスリム・ネットワーク・ウェールズ」が設立されました。さらに2003年には、公的な場でのムスリムコミュニティの代表として「ウェールズ・ムスリム評議会」が発足しています。
教育や青少年育成の分野でも成果が見られます。2006年にはカーディフで100名以上のメンバーを擁するムスリム初のスカウトグループが発足しました。また、2007年にはスウォンジー大学が、英国学生イスラム協会連盟(FOSIS)より、キャンパス内で最高のモスク施設を持つ大学として表彰されました。
今後の展望と施設拡充
地域的な広がりも続いており、カーマーゼンでのイスラムセンター建設計画や、カーマーゼンシャーのラニビダーにムスリム聖職者のためのトレーニングカレッジが設立されました。さらに2010年代には、アフマディーヤ・ムスリム共同体によるウェールズ初のアフマディー・モスクの建設計画が発表されています。
| 時期 | 出来事・影響 | 場所・人物 |
|---|---|---|
| 12世紀 | イスラム世界との接触(コーランの発見など) | ヴァレ・クルシス修道院 |
| 1859年 | ヘンリー・スタンリー男爵の改宗と教会装飾 | アングルシー島の諸教会 |
| 1879年〜1882年 | ウェールズ語訳コーランの新聞掲載 | Y Gwladgarwr / Tarian y Gweighirt |
| 1947年 | ウェールズ初の専用モスク完成 | カーディフ(ピーリスตรี・モスク) |
| 2001年〜2003年 | 支援ネットワークおよび評議会の設立 | ウェールズ全域 |
| 2007年 | 最優秀キャンパスモスク施設賞の受賞 | スウォンジー大学 |
Frequently Asked Questions
ウェールズにイスラム教の影響が見られる最古の例は何ですか?
12世紀まで遡る接触の記録があり、具体的にはランゴレン近郊のヴァレ・クルシス修道院の壁に隠されていたコーランの発見などが挙げられます。
教会のステンドグラスにイスラム様式が取り入れられたのはなぜですか?
1859年にイスラム教に改宗したヘンリー・スタンリー(第3代オールダーリー男爵)が、アングルシー島の複数の教会を改修した際に、イスラムの幾何学模様を導入したためです。
ウェールズで最初に建てられたモスクはどこですか?
1947年にカーディフに建設された「ピーリスตรี・モスク」です。当初はドームとミナレットを持つ伝統的な形式でしたが、1988年にレンガ造りの建物に改築されました。
ウェールズ語でコーランが読めるようになったのはいつ頃からですか?
19世紀後半に、ジョセフ・ハリーやジョン・ティウィ・ジョーンズなどの急進的な著者たちによって翻訳が行われ、1879年や1882年の新聞などで公開されました。
現代のウェールズにおけるムスリムコミュニティの活動にはどのようなものがありますか?
改宗者支援を行うネットワークの運営、公的な代表機関であるムスリム評議会の活動、青少年向けのスカウトグループ、そして聖職者を育成するカレッジの運営など、多岐にわたります。