現代の経済成長において、技術革新(イノベーション)は国家の競争力を決定づける最重要要素の一つです。世界的にその能力を定量化し、可視化した指標として知られているのが世界イノベーション指数(Global Innovation Index: GII)です。この指数は、単なるランキングにとどまらず、各国政府が科学技術政策や持続可能な開発戦略を策定するための重要なベンチマークとして活用されています。
Key Facts
- 発行元:世界知的所有権機関(WIPO)が毎年発行。
- 目的:各国のイノベーション能力と、それがもたらす成果を測定・ランキング化すること。
- 算出根拠:世界銀行や世界経済フォーラムなどの客観的・主観的データに基づき算出。
- 構成:「イノベーション投入指数」と「イノベーション産出指数」の平均値で決定。
- 影響力:国連総会の決議でも言及されるなど、国際的な政策指針として認められている。
GIIの成り立ちと運用の仕組み
GIIは2007年、INSEADと英国の雑誌『World Business』によって、Soumitra Dutta氏の主導で創設されました。当初は複数の機関による共同出版形式でしたが、2021年以降はWIPOが中心となって発行しています。この指数は、単に特許数などの数値を見るのではなく、多角的な視点からイノベーションのエコシステムを評価しています。
評価の枠組みは、大きく分けて「投入(Input)」と「産出(Output)」の2つのサブインデックスで構成されています。投入側では制度やインフラなどの基盤を、産出側では実際の成果物を測定し、それぞれの加重平均から最終的なスコアを導き出します。

分析の深化とテーマ設定
GIIの特徴の一つに、2年ごとに設定される「特別テーマ」があります。ランキングの提示だけでなく、特定の課題に焦点を当てた深い分析を行うためです。例えば2020年には「イノベーションへの資金調達」をテーマに、既存のメカニズムの進化や今後の課題を検証しました。過去には、環境、保健、農業・食品といった分野のイノベーションについても深く掘り下げられています。
最新のランキング動向(2024年・2025年)
最新の2025年版では、139の経済圏が対象となりました。これは世界人口の約93.6%をカバーしており、分析には78の異なる指標が用いられています。ランキングの上位には、依然として高所得国が名を連ねていますが、所得水準が異なる国々が上位に食い込む傾向も見られます。

特に注目すべきは、中所得国が急速に順位を上げている点です。データに基づいた政策改善を行うことで、短期間でイノベーション能力を向上させる国が出現しています。

主要国のスコア比較
| 順位 | 国・地域 | 2025年スコア | 2024年スコア | 所得グループ |
|---|---|---|---|---|
| 1 | スイス | 66.0 | 67.5 | 高所得 |
| 2 | スウェーデン | 62.6 | 64.5 | 高所得 |
| 3 | アメリカ合衆国 | 61.7 | 62.4 | 高所得 |
| 4 | 韓国 | 60.0 | 60.9 | 高所得 |
| 5 | シンガポール | 59.9 | 61.2 | 高所得 |
| 6 | イギリス | 59.1 | 61.0 | 高所得 |
| 7 | フィンランド | 57.7 | 59.4 | 高所得 |
| 8 | オランダ | 57.0 | 58.8 | 高所得 |
| 9 | デンマーク | 56.9 | 57.1 | 高所得 |
| 10 | 中国 | 56.6 | 56.3 | 上位中所得 |
評価手法に対する批判と議論
広範な影響力を持つGIIですが、学術的な視点からの批判も存在します。一部の研究者は、イノベーションの本質とは直接関係の薄い指標(例:納税の容易さや電力出力など)に過剰な比重が置かれていると指摘しています。
また、2024年の研究では、指標の集計方法が粗すぎるため、イノベーションを決定づける真の要因が見えにくくなっているという意見が提示されました。開発段階にある国と先進国では、イノベーションを促進する要因が異なるため、地理的・人口統計的・社会経済的な要因を組み込んだ、より柔軟なモデルへの再定義が求められています。
Frequently Asked Questions
GIIはどのようなデータを使って計算されていますか?
世界銀行、世界経済フォーラム、国際電気通信連合(ITU)などの信頼できる機関から提供される、客観的な統計データと主観的なアンケートデータの両方を組み合わせて算出しています。
ランキングに掲載されるための条件は何ですか?
2025年版の場合、イノベーション投入サブインデックスで35指標以上、産出サブインデックスで15指標以上のデータがあり、かつ各ピラー(柱)につき少なくとも2つのサブピラーのスコアが存在することが条件となります。
日本は世界的に見てどのような位置にありますか?
2025年のランキングでは12位(スコア53.6)、2024年では13位(スコア54.1)となっており、世界的に見ても非常に高いイノベーション能力を持つ高所得国として位置づけられています。
GIIの結果はどのように活用されているのでしょうか?
多くの国々がこの結果を分析し、自国の弱点を把握して政策を改善するために利用しています。また、国連総会などの国際的な枠組みにおいても、持続可能な開発のための科学技術指標として参照されています。
References
- Jean-Eric Aubert (editor) (2010). Innovation Policy: A Guide for Developing Countries. Washington, DC: World Bank. .
- Charles H. Matthews, Ralph Brueggemann (2015). Innovation and Entrepreneurship: A Competency Framework. London; New York: Routledge. .
- "UK ranked as world-leader in innovation". Department for Business, Innovation & Skills. 17 September 2015. Retrieved 15 July 2016.
- "Academic Network – Portulans Institute". portulansinstitute.org. Retrieved 15 November 2022.
- Soumitra Dutta, Bruno Lanvin, Sacha Wunsch-Vincent (editors) (2015). Global Innovation Index Report 2015. Fontainebleau; Ithaca; Geneva: INSEAD, Cornell and WIPO. . Archived 18 February 2016.
- "Republic Act No. 11293 : The Philippine Innovation Act declares the GII as a measure of innovation". lawphil.net. Retrieved 15 November 2022.
- In July 2021, the Intellectual Property Strategy Headquarters, under the Japanese Prime Minister's Office, decided on the Intellectual Property Promotion Plan 2021, which set forth a plan of annual action related to intellectual property for all ministries and agencies. In the first part of the plan, WIPO's GII is cited (p. 5): https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20210713.pdf
- The GII is also cited throughout the official Malaysian Government report, the Twelfth Malaysia Plan (RMK12): https://rmke12.epu.gov.my/en Archived 4 June 2023 at the .
- "Resolution No. 01/NQ-CP on solutions for implementation of socio economic development plan in 2021". LuatVietnam. Retrieved 9 November 2022.
- "UK ranked as world-leader in innovation". Department for Business, Innovation & Skills. 17 September 2015. Retrieved 15 July 2016.
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