1960年代、世界中を席巻した「モータウン・サウンド」。その心臓部として、数え切れないほどのヒット曲を裏側で支え続けたのが、スタジオ・ミュージシャン集団ファンク・ブラザーズです。彼らは単なる伴奏者ではなく、独創的なリズムとグルーヴによって、ポピュラー音楽の歴史を塗り替えた真の立役者でした。

Key Facts

  • モータウンの屋台骨: デトロイトを拠点に、数多くのヒット曲のバック演奏を担当した。
  • 多様な構成: アフリカ系アメリカ人が中心だったが、白人ミュージシャンも在籍していた。
  • 遅すぎた評価: 長年クレジットに名前が載らず、正当な評価を得るまでには長い時間を要した。
  • 副業の逸話: モータウン以外のレーベルでも活動し、他社のヒット曲にも深く関与していた。
  • 解散の経緯: 1972年のモータウン本社のロサンゼルス移転に伴い、事実上の解散となった。

名もなき職人たちから「伝説」へ

ファンク・ブラザーズのメンバーは、もともと表舞台に立つ存在ではありませんでした。モータウンの創設者ベリー・ゴーディ・ジュニアは、当初スタジオ・ミュージシャンの名前をクレジットに載せることを好まず、1971年のマーヴィン・ゲイ『What's Going On』まで、彼らの名前が公に記されることは稀でした。

また、「ファンク(Funk)」という言葉を嫌ったゴーディにより、一部の作品では「アール・ヴァン・ダイク&ザ・ソウル・ブラザーズ」として表記されていました。彼らが「ファンク・ブラザーズ」と呼ばれるようになったのは、ドラマーのベニー・ベンジャミンが、ケーブルが張り巡らされ「スネーク・ピット(蛇の穴)」と呼ばれたスタジオの階段で、仲間たちにそう呼びかけたことがきっかけだと言われています。

多彩なメンバー構成と音楽的背景

バンドの初期メンバーには、リーダーのジョー・ハンターや、ピアノとオルガンのアール・ヴァン・ダイク、伝説的なベーシストのジェームス・ジェマーソンなどが名を連ねていました。その後、ジョニー・グリフィスやウリエル・ジョーンズ、ボブ・バビット、デニス・コフィーらが加わり、層の厚いアンサンブルを形成しました。

特筆すべきは、当時の人種的な壁を越えた構成です。デトロイト出身のアフリカ系ミュージシャンが中心でしたが、オーストラリア出身のジャック・ブロケンシャや、ピッツバーグ出身のボブ・バビット、ジョー・メッシーナといった白人奏者も重要な役割を果たしていました。

ファンク・ブラザーズの主要メンバーと役割
役割 主なメンバー
キーボード ジョー・ハンター、アール・ヴァン・ダイク、ジョニー・グリフィス
ベース ジェームス・ジェマーソン、ボブ・バビット、クラレンス・アイザベル
ドラム・パーカッション ベニー・ベンジャミン、リチャード・アレン、ウリエル・ジョーンズ、エディ・ブラウン、ジャック・アシュフォード
ギター ロバート・ホワイト、エディ・ウィリス、ジョー・メッシーナ、デニス・コフィー
管楽器・その他 マイク・テリー(バリサックス)、ポール・ライザー(トロンボーン)、ジャック・ブロケンシャ(ヴィブラフォン)

スタジオの外での活動と葛藤

モータウンでの給与を補うため、彼らは他レーベルのセッションにも積極的に参加していました。例えば、ジャッキー・ウィルソンのヒット曲「(Your Love Keeps Lifting Me) Higher and Higher」や、エドウィン・スターの「Agent Double-O Soul」などの演奏に携わっていました。

しかし、この「副業」はゴーディに知られ、メンバーに罰金が科せられるという事件に発展します。皮肉なことに、罰金を科されたミュージシャンたちに、競合レーベルのオーナーだったエディ・ウィンゲートが、罰金の2倍の金額を現金で手渡したという逸話が残っています。最終的にゴーディはウィンゲートのレーベルとアーティストを買い取ることでこの問題を解決しました。

時代の転換と解散、そして再評価

1960年代後半になると、モータウンは一部の楽曲でロサンゼルスのセッション・ミュージシャンを起用し始めます。1970年頃にはジャクソン5のレコーディングを含め、多くの制作拠点が西海岸へ移りました。デトロイトでの録音に固執したプロデューサーもいましたが、1972年にベリー・ゴーディが本社を完全にロサンゼルスへ移転させたことで、ファンク・ブラザーズは解散に追い込まれました。一部のメンバーは西海岸へ向かいましたが、そこでは「レッキング・クルー」と呼ばれる現地の熟練ミュージシャンたちが彼らの役割を担うこととなりました。

その後、彼らの功績は再評価され、2004年にはグラミー賞のレジェンド賞を受賞。2010年にはミシガン・ロック・アンド・ロール・レジェンズ殿堂入りを果たしました。晩年には、フィル・コリンズのアルバム『Going Back』への参加や、デトロイトでの再結成プロジェクトなど、再びその卓越したスキルを披露し続けました。

The Funk Brothers as reincarnated in 2006. The lineup includes three of the original members: Bob Babbitt (2nd from left), Joe Hunter (4th from left), Uriel Jones (8th from left).

Frequently Asked Questions

なぜ彼らは長い間、世間に知られていなかったのですか?

当時のモータウン社では、スタジオ・ミュージシャンの名前をレコードのクレジットに記載する習慣がなかったためです。彼らはあくまで「裏方」として扱われていました。

「ファンク・ブラザーズ」という名前の由来は何ですか?

ドラマーのベニー・ベンジャミンが、スタジオを出る際に仲間たちに向けて「お前たちはファンク・ブラザーズだ」と呼びかけたことが始まりとされています。

モータウン以外の曲でも演奏していたというのは本当ですか?

はい。収入を増やすために他レーベルのセッションに参加しており、ジャッキー・ウィルソンやエドウィン・スターなどのヒット曲に深く関わっていました。

彼らが解散した直接的な理由は何ですか?

1972年にモータウンの全拠点がデトロイトからロサンゼルスへ移転したためです。多くのメンバーは、スタジオのドアに貼られた通知でこの事実を知らされたと言われています。

後年、どのような活動を行いましたか?

2000年代に入り、グラミー賞の受賞や、フィル・コリンズのモータウン・カバーアルバムへの参加、またデトロイトでの再結成レコーディングなど、多くのプロジェクトに貢献しました。