1970年代初頭、NASAは宇宙の深淵から届く低周波の電波を研究するため、ある野心的な計画を遂行しました。それがExplorer 49(別名:Radio Astronomy Explorer-2、RAE-B)です。この衛星は、地球からの電波干渉を避けるために月軌道へと送り込まれ、太陽や惑星、そして銀河系が発する長波の電波を観測する役割を担いました。
アポロ計画が終了した直後の1973年に打ち上げられたこのミッションは、1994年のクレメンタイン計画まで、アメリカによる最後の月周回ミッションとなりました。特筆すべきは、その巨大なアンテナ構造であり、展開後のサイズは当時の宇宙機の中でも最大級を誇りました。
Key Facts
- ミッション目的:25kHzから13.1MHzの周波数帯における電波天文学的観測。
- 最大の特徴:X字型に展開される全長約230メートルの超大型アンテナ。
- 運用期間:1973年6月の打ち上げから1977年まで、約4年2ヶ月間にわたり活動。
- 軌道:地球の電波干渉を最小限に抑えるため、月を周回するセレノセントリック軌道を採用。
- 主要成果:太陽や銀河系、惑星からの低周波電波データの収集。
機体構造と驚異的なアンテナシステム
Explorer 49の本体は、アルミニウムとアルミニウムハニカム構造で構築された直径92cm、高さ79cmの切頭円柱形をしていました。打ち上げ時の質量は330.2kgでしたが、月軌道投入時には200kgまで軽量化されていました。電力は4枚の太陽電池パドルから得られる25ワットの電力で賄われ、ニッケルカドミウム電池に蓄電されていました。
この衛星の真骨頂は、ベリリウム銅(BeCu)製の巨大なアンテナ群にあります。具体的には、月とは反対方向を向いた上部V字アンテナ(229m)と、月方向を向いた下部V字アンテナ(229m)、そして月面に平行なダイポールアンテナ(37m)の3種類で構成されていました。また、機体の振動を抑えるために129メートルのホウ素製リブレーションダンパーブームが装備されていました。
ミッションの展開と軌道運用
1973年6月10日、フロリダ州ケープカナベラルからThor-Delta 1913ロケットによって打ち上げられた本機は、直接上昇軌道を経て6月15日に月軌道へ投入されました。観測の精度を高めるため、地球からの電波干渉を避ける配置が慎重に計算されていました。
運用初期にはまず37mのダイポールアンテナのみを展開し、スピン安定モードで動作させました。その後、3週間を経てメインとなる巨大なV字アンテナとダンパーを順次展開。下部V字アンテナは、最初の16ヶ月間は183mまで、1974年11月には全長の229mまで完全に伸長されました。観測周期は、月の会合周期である29.5日と、地球の特定地点が月の背後を通過する24.8時間のサイクルに影響を受けていました。
搭載された科学観測装置
ロバート・G・ストーン博士の主導により、以下の高度な計測機器が搭載されました。
ラピッドバースト受信機 (Rapid-Burst Receivers)
25kHzから13.1MHzの範囲を32チャンネルで高速にスキャンする受信機です。上部および下部V字アンテナにそれぞれ接続され、7.68秒ごとに各周波数のサンプルを収集しました。ただし、ダイポールアンテナ用の受信機は運用開始1週間で故障し、有意なデータは得られませんでした。
ステップ周波数ラジオメータ (Step Frequency Radiometers)
ゲインや帯域幅の変化に影響されにくい設計のRyle-Vonberg型受信機です。0.45MHzから9.18MHzまでの9つの周波数を切り替えながら観測を行い、高精度な信号強度を測定しました。
インピーダンスプローブ (Impedance Probe)
主にエンジニアリング目的の装置であり、飛行初期に上部V字アンテナの特性を確認するために使用されました。
ミッションのまとめ
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 運用機関 | NASA |
| 打ち上げ日 | 1973年6月10日 |
| 打ち上げロケット | Thor-Delta 1913 |
| 観測周波数帯 | 25 kHz 〜 13.1 MHz |
| 最大アンテナ長 | 229 m (V字アンテナ) |
| ミッション終了 | 1977年9月(破壊) |
1977年8月に地球との通信が途絶し、その後間もなくして月面に衝突し、その役目を終えたと考えられています。Explorer 49は、極めて困難な月軌道での巨大アンテナ展開という技術的挑戦を成し遂げ、宇宙の低周波電波研究に貴重なデータを提供しました。
Frequently Asked Questions
Explorer 49は月面を直接調査したのですか?
いいえ。このミッションの主目的は電波天文学であり、月そのものの調査ではなく、月軌道を利用して地球からの電波干渉を遮断し、宇宙からの低周波電波を観測することでした。
なぜこれほど巨大なアンテナが必要だったのですか?
観測対象とした25kHzから13.1MHzという非常に長い波長の電波を効率的に捉えるためには、物理的に非常に長いアンテナが必要だったためです。
ミッション中に発生した技術的な問題はありましたか?
ダイポールアンテナ用受信機の早期故障や、月影に入った際の温度変化によるアンテナブームの「シザーモード振動」などの現象が報告されています。
この衛星はどのようにして地球にデータを送っていましたか?
低電力のUHF送信機によるリアルタイム送信のほか、オンボードのテープレコーダーに保存したデータを高電力UHF送信機で送信する方式が採用されていました。
Explorer 49の後のアメリカの月ミッションは何ですか?
このミッション終了後、アメリカが再び月周回機を打ち上げたのは1994年のクレメンタイン(Clementine)計画まで、長い空白期間がありました。
References
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