ドイツのエッセンに本拠を置くエボニック・インダストリーズ(Evonik Industries AG)は、世界有数のスペシャリティケミカル(高機能化学品)メーカーです。ドイツ国内では第2位の規模を誇り、100カ国以上で事業を展開するグローバル企業として、現代の産業に不可欠な高度な化学ソリューションを提供しています。
同社は単なる化学メーカーではなく、歴史的な産業再編を経て誕生した組織であり、現在はRAG財団が主要株主として経営を支えています。エネルギーや不動産といった多角的な事業から、現在は高付加価値な化学分野へと完全にリソースを集中させています。
Key Facts
- 世界的な地位: スペシャリティケミカル分野で世界最大級の規模を誇る。
- 事業構造: 売上の約80%を市場リーダーとしての地位を確立しているスペシャリティケミカル事業が占める。
- 財務規模: 2025年の売上高は141億ユーロ、純利益は2億6,500万ユーロに達する。
- 雇用規模: 世界中で約31,000人の従業員を擁する。
- 主要株主: RAG財団が67.9%の株式を保有する筆頭株主である。
エボニックの成り立ちと組織の変遷
エボニックの歴史は、ドイツの鉱業・技術グループであるRAG AGの構造改革に端を発します。2005年、政府契約に基づく石炭採掘事業と、国際競争にさらされる化学・エネルギー・不動産事業を分離する計画が浮上しました。この分離の目的は、資本調達の柔軟性を高め、株主への配当を可能にすることにありました。
2007年7月にRAG財団が設立され、同年9月12日にエボニック・インダストリーズが正式に誕生しました。その後、戦略的投資家としてCVCキャピタル・パートナーズが参画し、紆余曲折を経て2013年4月25日にフランクフルト証券取引所へ上場しました。
事業ポートフォリオの最適化
設立当初は化学、エネルギー、不動産の3分野を統合していましたが、戦略的な選択と集中により、現在は化学事業に特化しています。かつてのエネルギー部門(Evonik Steag GmbH)や不動産部門(Vivawest GmbH)は順次売却または分離され、現在はスペシャリティケミカルの追求に専念しています。
化学事業の展開と技術的影響力
エボニックの化学事業は、かつてのデグサ(Degussa)の流れを汲んでおり、現在は6つのビジネスユニット(高度中間体、コンシューマー・スペシャリティ、コーティング&添加剤、無機材料、ヘルス&ニュートリション、パフォーマンスポリマー)で構成されています。
同社は積極的な設備投資を行っており、シンガポールに建設したDL-メチオニン製造プラントには5億ユーロを投じました。これは同社の化学セクターにおける過去最大規模の投資となります。
一方で、製造上のリスクが世界経済に影響を与えた事例もあります。2012年にマール工場で発生したシクロドデカトリエン(CDT)プラントの火災では、ポリアミドPA12の原料供給が停滞し、世界の自動車産業に影響を及ぼしました。この出来事は、バイオベースの代替素材への関心を高めるきっかけとなりました。
歴史的責任と過去の経緯
エボニックの前身の一つであるデグサ社は、第二次世界大戦中にナチス政権に協力していた暗い歴史を持っています。子会社のデゲシュ(Degesch)は、ホロコーストのガス室で使用された猛毒ガス「ツィクロンB」の主要な製造・販売業者でした。また、強制収容所の囚人から奪われた金歯の処理や、強制労働者の雇用に関与していたことが記録されています。
こうした過去は、ベルリンのホロコースト記念碑建設時に、使用されていたプラスチック剤や防汚コーティングがデグサ製であることが判明し、一時工事が中断されるなどの議論を呼びました。同社はこれらの歴史的事実に向き合う必要性に直面してきました。
社会貢献とスポーツスポンサーシップ
エボニックはスポーツや文化活動への支援を通じて、ブランドの認知度向上と社会貢献に取り組んでいます。特にドイツのサッカークラブ、ボルシア・ドルトムント(BVB)との関係は深く、2007/2008シーズンからメインスポンサーを務め、現在はチャンピオンパートナーとして活動しています。

また、人道支援にも積極的で、2011年の東日本大震災の際には、ボルシア・ドルトムントと日本オールスターチームのチャリティマッチを通じて、被災地の児童養護施設に100万ユーロを寄付しました。その他、世界チェス選手権のスポンサーや、アゾレス諸島での深海研究を行う非営利団体への支援など、多岐にわたる活動を展開しています。
企業概要まとめ
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 本社所在地 | ドイツ、ノルトライン=ヴェストファーレン州エッセン |
| 設立日 | 2007年9月12日 |
| 主要製品 | スペシャリティケミカル(高機能化学品) |
| 2025年売上高 | 141億ユーロ |
| 従業員数 | 31,053人(2025年) |
| 上場市場 | フランクフルト証券取引所 (FWB: EVK) |
Frequently Asked Questions
エボニックはどのような製品を作っている会社ですか?
主に「スペシャリティケミカル」と呼ばれる高付加価値な化学品を製造しています。具体的には、自動車産業向けのポリマー、健康食品向けの栄養成分、工業用コーティング剤など、特定の機能を持つ高度な化学素材を提供しています。
RAG財団とはどのような関係にありますか?
RAG財団はエボニックの筆頭株主であり、株式の約67.9%を保有しています。エボニックはもともとRAG AGの再編によって誕生したため、財団がその所有権の大部分を保持し、経営の安定性を支えています。
なぜ過去にホロコーストとの関連が指摘されたのですか?
エボニックの前身であるデグサ社が、第二次世界大戦中にナチス政権下でツィクロンBの製造・販売に関与し、強制収容所での金歯の処理や強制労働者の雇用を行っていたためです。
ボルシア・ドルトムントとの関係は?
2007年から長年にわたりメインスポンサーを務めており、現在は「チャンピオンパートナー」としてチームを支援しています。ユニフォームの胸ロゴなどでそのパートナーシップが広く知られています。
2012年の火災がなぜ世界的に問題になったのですか?
マール工場で生産されていたシクロドデカトリエン(CDT)は、ポリアミドPA12という重要なプラスチックの原料となります。この生産が停止したことで、CDTに依存していた世界の自動車部品などの供給網に影響が出たためです。
References
- "Evonik Financial Report 2025". . Retrieved 1 April 2025.
- Coast, Melody M. Bomgardner, C&EN West. "Clariant and Huntsman to join in $20 billion deal | Chemical & Engineering News". cen.acs.org. Retrieved 30 September 2017.
{{}}: CS1 maint: multiple names: authors list () - "Geschäftsbericht 2019 der RAG-Stiftung" (PDF). Archived from the original (PDF) on 27 February 2023. Retrieved 27 February 2023.
- Burger, Ludwig (27 June 2014). "Borussia Dortmund wins sponsor Evonik as investor". . Archived from the original on 7 March 2016.
- "Kensing to acquire Evonik's surfactant and specialty esters operations". nutritioninsight.com/. Retrieved 23 April 2024.
- Wiesen, S. Jonathan (16 November 2005). "From Cooperation to Complicity: Degussa in the Third Reich". Holocaust and Genocide Studies. 19 (3): 528–531. :10.1093/hgs/dci047.
- Hayes, Peter (2012). "The Ambiguities of Evil and Justice: Degussa, Robert Pross, and the Jewish Slave Laborers at Gleiwitz". Gray Zones: Ambiguity and Compromise in the Holocaust and its Aftermath (1st ed.). Berghahn Books. pp. 7–25. .
- Bernstein, Richard (14 November 2003). "Berlin Holocaust Shrine Stays With Company Tied to Nazi Gas". New York Times. Retrieved 30 May 2011.
- "Chemical & Engineering News: Latest News-RAG to Take over Degussa".
- "RAG may sell more Evonik shares to individual investor prior to IPO – Evonik CEO". . 12 June 2008. Archived from the original on 5 August 2011. Retrieved 11 July 2008.
📸 フォトギャラリー





