アメリカ合衆国の歴史において、先住民の権利回復のために最も影響力のある闘いを繰り広げた人物の一人が、エロイーズ・ペピオン・コベル(別名:イエロー・バード・ウーマン)です。彼女はブラックフット連邦の長老であり、銀行家、そして活動家として、政府による不当な資金管理に立ち向かい、数多くの先住民に正当な権利を取り戻させました。
Key Facts
- 歴史的訴訟: 50万人以上の先住民を代表し、政府の信託基金管理不備を問う「コベル対サラザール事件」を主導。
- 最大規模の和解: 米国連邦政府に対する集団訴訟として史上最大となる34億ドルの和解金を勝ち取った。
- 金融的自立: 先住民が所有する初の国立銀行である「ブラックフット国立銀行」を設立。
- 最高栄誉: 死後、バラク・オバマ大統領より大統領自由勲章を授与された。
- 教育への貢献: 彼女の名を冠した「コベル教育奨学金基金」を設立し、次世代の支援を実現。
不遇な環境から金融の専門家へ
1945年、モンタナ州のブラックフット保留地で生まれたエロイーズは、伝説的な指導者マウンテン・チーフのひ孫にあたります。彼女が育った環境は厳しく、電気や水道さえ通っていない家で、一室だけの小さな学校に通う日々を過ごしました。しかし、彼女は学びへの意欲を失わず、グレートフォールズ・ビジネスカレッジを卒業し、モンタナ州立大学でも学びました。大学卒業を目前に、癌に侵された母親の介護のために学業を中断せざるを得ませんでしたが、この経験が彼女の強い責任感と精神力を養いました。
その後、シアトルでアルビン・コベルと結婚し、息子タークをもうけた彼女は、再び故郷の保留地に戻り、父親の牧場経営を支援しながらブラックフット族の財務責任者に就任しました。彼女はここで、先住民の経済的自立こそが重要であると確信し、先住民が所有する初の国立銀行であるブラックフット国立銀行を設立しました。この功績と金融リテラシー向上への取り組みが評価され、1997年には「天才賞」として知られるマッカーサー・フェローシップを受賞しています。
政府の不正を暴いた「コベル対サラザール事件」
財務責任者として10年以上活動する中で、エロイーズは衝撃的な事実に気づきました。米国政府が先住民の土地(森林、石油、ガス、鉱物などの資源)をリースして得た収益を信託基金として管理していましたが、その会計処理に極めて深刻な不備があることを見抜いたのです。本来、土地の所有者である先住民に支払われるべきロイヤリティが正しく分配されておらず、世代交代に伴う土地の細分化によって管理はさらに混乱していました。
1980年代半ばから10年以上にわたり、彼女は政治的な改革を求めましたが、政府は応じませんでした。そこで彼女は、法的な手段に打って出ることを決意します。1996年、彼女は原告代表となり、内務省を相手取った集団訴訟「コベル対サラザール事件」を提起しました。この訴訟の目的は、政府に正確な会計報告を義務付け、不当に管理されていた資金を正当な所有者に返還させることでした。
歴史的な和解と遺されたレガシー
長年にわたる法廷闘争の結果、2009年にバラク・オバマ政権下で和解が成立しました。2010年には、総額34億ドルという、連邦政府に対する集団訴訟としては史上最大規模の和解金が議会で承認されました。この和解金は主に以下の3つの目的で使用されました。
- 個人への補償: 影響を受けた数十万人の先住民への直接的な支払い。
- 土地の買い戻し: 細分化された土地権益を買い戻し、保留地の土地基盤を部族の管理下に戻す(2016年までに約170万エーカーを回復)。
- 教育支援: 「コベル教育奨学金基金」の設立(6,000万ドル規模)による、先住民およびアラスカ先住民の学生への支援。
エロイーズは、和解金が本来得られるべき全額に満たないことを承知しながらも、年老いた先住民たちが生前に正当な補償を受け取れるよう、あえて早期の和解を選択しました。彼女のこの決断は、個人の権利だけでなく、コミュニティ全体の救済を優先した慈愛に満ちたものでした。
人物像と晩年
社会的な闘いの一方で、彼女は情熱的なエルヴィス・プレスリーのファンとしても知られていました。かつてはモンタナ州のエルヴィス・ファンクラブ会長を務めていたほどで、彼女の葬儀では参列者の車のラジオがすべてエルヴィスの曲に合わせられ、会場には彼の等身大パネルが飾られるなど、彼女の人間味あふれる一面が偲ばれました。
2011年10月16日、エロイーズは癌との闘いの末、65歳でこの世を去りました。しかし、彼女の功績は消えることなく、2016年には死後に大統領自由勲章が授与され、2018年には全米先住民殿堂入りを果たすなど、後世に語り継がれる英雄となりました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 主な役割 | ブラックフット族長老、銀行家、活動家 |
| 代表的な成果 | コベル対サラザール事件での34億ドルの和解金獲得 |
| 金融的貢献 | 先住民所有の初の国立銀行(ブラックフット国立銀行)を設立 |
| 社会的影響 | 保留地の土地基盤の回復と教育奨学金制度の確立 |
| 最高栄誉 | 大統領自由勲章(2016年、死後授与) |
Frequently Asked Questions
コベル対サラザール事件とはどのような訴訟でしたか?
米国政府が先住民の土地から得られた資源リース料などの信託基金を不適切に管理していたことを問い、正確な会計報告と正当な支払いを求めた集団訴訟です。50万人以上の先住民が原告として関わりました。
和解金はどのように活用されましたか?
個人への直接的な補償金の支払いに加え、細分化されていた土地権益を政府が買い戻して部族に返還すること、そして先住民学生のための教育奨学金基金の設立に充てられました。
ブラックフット国立銀行の重要性は何ですか?
先住民が所有し、保留地内に設置された初の国立銀行である点にあります。これにより、先住民コミュニティの金融リテラシーが向上し、経済的な自立を促進する基盤が作られました。
彼女が受けた主な賞は何ですか?
1997年のマッカーサー・フェローシップ(天才賞)をはじめ、死後の大統領自由勲章、モンタナ州立大学からの名誉博士号など、数多くの権威ある賞を受賞しています。
彼女の活動は現在の先住民にどのような影響を与えていますか?
土地の買い戻しによる保留地の基盤強化や、奨学金を通じた教育機会の拡大など、物理的・知的な資産の両面で、現代の先住民コミュニティに持続的な恩恵をもたらしています。
References
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