コカイン(化学名:ベンゾイルメチルエクゴニン)は、南米原産のコカの葉から抽出される強力な精神刺激薬であり、同時に局所麻酔薬としての特性を持つ化合物です。歴史的に伝統的な利用法から現代の医学的用途、そして深刻な薬物乱用問題に至るまで、多面的な側面を持っています。
Key Facts
- 薬理分類: 局所麻酔薬、SNDRI(セロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミン再取り込み阻害薬)、精神刺激薬。
- 主な作用: 中枢神経を刺激し、覚醒状態や多幸感をもたらす。
- 依存性: 身体的依存性は低いが、心理的依存性が極めて高く、中毒になりやすい。
- 投与経路: 経口、経鼻(insufflation)、静脈注射、吸入など。
- 法的地位: 多くの国で厳格に規制されており、米国ではスケジュールII、英国やニュージーランドではクラスAに指定されている。
伝統的な利用と形態
コカインの源となるコカの葉は、アンデス地域で古くから伝統的に利用されてきました。葉をそのまま噛む場合、アルカリ性物質である「リプタ(Llipta)」を併用することで、有効成分の抽出効率を高める手法が取られています。

また、コカの葉を煮出したコカ茶や、葉を焼いて粉末にし、灰を混ぜ合わせた「マンベ(Mambe)」または「イパドゥ(Ypadu)」といった形態でも消費されます。


医学的用途と化学的特性
医学的な文脈では、コカインはその強力な局所麻酔作用から、特に眼科手術や局所的な麻酔が必要な処置に利用されてきました。化学的にはC17H21NO4の分子式を持ち、水への溶解度は低く(22℃で1.8g/L)、融点は98℃です。

精製されたコカイン塩酸塩は白い粉末状であり、密輸の際には圧縮された塊状にされることがあります。また、不純物としてレバミゾールなどが混入している場合があり、これが特有の副作用を引き起こす原因となることがあります。


乱用形態と摂取方法
娯楽目的での利用では、鼻粘膜から吸収させる「スノー(insufflation)」や、静脈注射、そして加熱して煙を吸入する「クラック(Crack)」などの形態があります。クラックはコカイン塩酸塩を加工したもので、より速効性が高く、依存性が強いことが知られています。

![Lines of cocaine prepared for snorting. Contaminated currency such as banknotes might serve as a fomite of diseases like hepatitis C[84]](/images/0f/a4/0fa4a3df5c3257e1256adc46414eacc290c0fb6cc801e5486791d3a3f74e5ea2.jpg)


法執行機関は、UVライトを用いた検知や、運転免許証などの表面から微量成分を検出するドラッグワイプテストを用いて、違法な使用を監視しています。


薬理作用と体内動態
コカインは、脳内のドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの再取り込みを阻害することで、これらの神経伝達物質の濃度を上昇させます。これにより、一時的な覚醒感や自信の向上、多幸感が得られます。
吸収速度は経路により異なり、吸入や注射では数秒から数分で効果が現れます。血中半減期は約1時間と短く、作用時間は20分から90分程度です。主に肝臓のCYP3A4酵素によって代謝され、腎臓から排泄されます。アルコールと併用した場合、体内的に「コカエチレン」という代謝物が生成され、毒性が増強されることが報告されています。
副作用と健康リスク
短期的には心拍数や血圧の上昇、不安感、不眠などが現れます。長期的な乱用は、心血管系への深刻なダメージや、精神病状態(サイコシス)などの神経毒性を引き起こします。

特に経鼻使用による物理的な損傷は顕著です。鼻中隔の穿孔(穴が開くこと)や、鼻中隔破壊性病変(CIMDL)へと進行し、最終的に「サドルノーズ(鞍鼻)」と呼ばれる鼻の形状変形を招くことがあります。

過剰摂取と死亡率
コカインの過剰摂取(オーバードーズ)は、心不全や呼吸停止、けいれんなどを引き起こし、死に至る危険があります。統計的に、コカインに関連する死亡率は年々変動しており、特に他の薬物との併用によるリスクが高まっています。


![US yearly overdose deaths involving cocaine.[191]](/images/43/59/43598c26b15424ae3cf174cf9ab7c94cda74a95df2cd4d52be48d3e778315799.webp)
社会的影響と法的規制
コカインの不法取引は、ラテンアメリカや西アフリカなどの生産・輸送拠点において、環境破壊やコミュニティの貧困化、暴力的な紛争を誘発しています。これに対し、各国政府は「麻薬戦争」などの強力な取り締まり策を講じてきましたが、その実効性については議論が続いています。


依存症からの回復には、認知行動療法や12ステッププログラムなどの心理社会的アプローチが有効であり、自助グループ(Cocaine Anonymousなど)によるサポートが重要視されています。

まとめ:コカインの特性一覧
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 主な薬理作用 | SNDRI(モノアミン再取り込み阻害)、局所麻酔 |
| 依存性の種類 | 心理的依存(極めて高い)、身体的依存(低い) |
| 主な代謝経路 | 肝臓(CYP3A4)→ 腎排泄 |
| 代表的な副作用 | 心血管疾患、鼻中隔穿孔、精神病、不眠 |
| 法的分類 | 国際的な麻薬スケジュール(IおよびIII)に指定 |
Frequently Asked Questions
コカインとクラックの違いは何ですか?
コカイン塩酸塩は水に溶けやすく、主に経鼻的に使用されます。一方、クラックはこれを塩基形式に加工したもので、水に溶けず揮発性が高いため、加熱して煙として吸入します。クラックは脳への到達速度が非常に速く、より強い依存性を引き起こします。
なぜ鼻に穴が開くことがあるのですか?
コカインには強力な血管収縮作用があります。経鼻的に使用し続けると、鼻粘膜の血流が著しく低下し、組織が壊死します。これにより鼻中隔に穴が開いたり、軟骨が崩壊して鼻の形が変わったりします。
アルコールと一緒に摂取するとどうなりますか?
肝臓でコカインとエタノールが反応し、「コカエチレン」という物質が生成されます。これはコカイン単体よりも血中にとどまる時間が長く、心臓への毒性が強いため、心血管系へのリスクが大幅に増大します。
身体的な禁断症状は激しいのでしょうか?
コカインの身体的依存性は比較的低いため、オピオイドのような激しい身体的禁断症状(震えや嘔吐など)は少ない傾向にあります。しかし、強い抑うつ感、疲労感、激しい薬物渇望といった心理的な禁断症状が非常に強く現れます。
医学的な利用は現在も行われていますか?
現代では、より安全で依存性のない合成局所麻酔薬(リドカインなど)が普及しているため、コカインの医学的利用は極めて限定的です。しかし、その特有の血管収縮作用が必要な一部の特殊な処置で使用されることがあります。
References
- Nordegren T (2002). The A-Z Encyclopedia of Alcohol and Drug Abuse. Universal-Publishers. p. 461. . Archived from the original on 8 July 2024. Retrieved 3 September 2020.
- "Goprelto – cocaine hydrochloride solution". DailyMed. 3 January 2020. Archived from the original on 30 July 2020. Retrieved 30 April 2020.
- "Numbrino – cocaine hydrochloride nasal solution". DailyMed. 28 February 2020. Archived from the original on 30 July 2020. Retrieved 30 April 2020.
- Ghodse H (2010). Ghodse's Drugs and Addictive Behaviour: A Guide to Treatment (4 ed.). Cambridge University Press. p. 91. . Archived from the original on 10 September 2017.
- Introduction to Pharmacology (3 ed.). Abingdon: CRC Press. 2007. pp. 222–223. . Archived from the original on 10 September 2017.
- Sora I, Hall FS, Andrews AM, Itokawa M, Li XF, Wei HB, et al. (April 2001). "Molecular mechanisms of cocaine reward: combined dopamine and serotonin transporter knockouts eliminate cocaine place preference". Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 98 (9): 5300–5305. :2001PNAS...98.5300S. :10.1073/pnas.091039298. 33204. 11320258.
- Azizi SA (April 2022). "Monoamines: Dopamine, Norepinephrine, and Serotonin, Beyond Modulation, "Switches" That Alter the State of Target Networks". The Neuroscientist. 28 (2): 121–143. :10.1177/1073858420974336. 33292070. 228080727.
- "DEA / Drug Scheduling". www.dea.gov. Archived from the original on 9 August 2017. Retrieved 7 August 2017.
- "Kokainhydroklorid" [Cocaine hydrochloride]. fass.se (in Swedish).
- Fattinger K, Benowitz NL, Jones RT, Verotta D (July 2000). "Nasal mucosal versus gastrointestinal absorption of nasally administered cocaine". European Journal of Clinical Pharmacology. 56 (4): 305–10. :10.1007/s002280000147. 10954344. 20708443.
📸 フォトギャラリー





![Lines of cocaine prepared for snorting. Contaminated currency such as banknotes might serve as a fomite of diseases like hepatitis C[84]](/images/0f/a4/0fa4a3df5c3257e1256adc46414eacc290c0fb6cc801e5486791d3a3f74e5ea2.jpg)







![US yearly overdose deaths involving cocaine.[191]](/images/43/59/43598c26b15424ae3cf174cf9ab7c94cda74a95df2cd4d52be48d3e778315799.webp)





