脳腫瘍とは、頭蓋骨内部の脳組織やその周辺に発生する腫瘍の総称です。これらは増殖速度や周囲への浸潤(しんじゅん:正常組織へ染み込むように広がる現象)の有無によって、良性悪性に大別されます。発生部位や組織の種類によって症状や予後が大きく異なるため、正確な診断と適切な治療計画の策定が極めて重要です。

The main areas of the brain and limbic system

Key Facts

  • 主な種類:原発性(脳内で発生)と転移性(他臓器から転移)に分かれ、原発性ではグリオーマや髄膜腫が多く見られる。
  • 代表的な症状:頭痛、けいれん(てんかん発作)、視覚障害、嘔吐、精神状態の変化など。
  • 診断手法:CTやMRIによる画像診断に加え、確定診断には組織生検(バイオプシー)が行われる。
  • 治療の柱:外科手術、放射線療法、化学療法が中心となる。
  • リスク要因:電離放射線への曝露や神経線維腫症などの遺伝的要因が関与する場合がある。

脳腫瘍の分類と発生メカニズム

原発性脳腫瘍

脳自体またはその周囲の組織から発生する腫瘍です。発生する細胞の種類によって以下のように分類されます。

  • グリオーマ(神経膠腫):アストロサイト(星状膠細胞)やオリゴデンドロサイト(少突起膠細胞)などの支持細胞から発生します。全体の約50.4%を占める最も一般的なタイプです。
  • 髄膜腫:脳を包む膜である髄膜から発生します(約20.8%)。多くは良性ですが、場所によっては脳を圧迫します。
  • 下垂体腺腫:ホルモン分泌を司る下垂体に発生します(約15%)。
  • 神経鞘腫:神経を包む鞘から発生します(約10%)。

The meninges lie between the skull and brain matter. Tumors originating from the meninges are meningiomas.

転移性脳腫瘍(二次性脳腫瘍)

肺がんなど、体内の他の部位で発生したがん細胞が血流などを介して脳に到達し、増殖したものです。

遺伝子レベルでの特徴

現代の医学では、遺伝子変異による分類が進んでいます。例えば、低悪性度のグリオーマではIDH1やIDH2遺伝子の変異がよく見られます。また、1pおよび19qという染色体腕の欠失とIDH遺伝子の変異が組み合わさっている場合は、オリゴデンドログリオーマである可能性が高くなります。一方、TP53やATRXの消失はアストロサイトーマの特徴とされています。

Micrograph of an oligodendroglioma, a type of brain cancer. Brain biopsy. H&E stain.

主な症状とリスク要因

現れやすいサイン

症状は腫瘍が脳のどの部位を圧迫しているかによって異なります。共通して見られる症状には、脳圧の上昇による頭痛嘔吐があります。また、電気的な異常によるけいれんや、視神経への影響による視覚障害、前頭葉などの影響による性格や行動の変化などが現れることがあります。

原因とリスク因子

多くの場合、明確な原因は特定されていませんが、いくつかのリスク要因が知られています。特に電離放射線への曝露はリスクを高めるとされており、被曝量に依存して発症率が上昇することが報告されています。その他、神経線維腫症やエプスタイン・バーウイルス(EBV)、塩化ビニルへの曝露などが要因となる場合があります。

診断と治療のアプローチ

精密検査による特定

診断の第一歩は画像診断です。CTスキャンでは腫瘍の大きさや周囲の浮腫(むくみ)を確認でき、MRIではより詳細な組織構造や血流状態を把握できます。特に造影剤を用いることで、血液脳関門(BBB:脳に有害物質が入るのを防ぐ仕組み)の破壊状況を確認し、腫瘍の境界を明確に判別します。

A clinical neuroradiology acquisition workstation. Disruption of the blood–brain barrier is assessed by imaging contrast enhancement profiles on cross-sectional CT and MRI slices to differentiate tumor margins from normal brain structures.

治療法の選択肢

治療は腫瘍の性質と位置に基づいて決定されます。

  1. 外科手術:可能な限り腫瘍を摘出し、脳への圧迫を軽減します。
  2. 放射線療法:高エネルギーの放射線を用いてがん細胞を死滅させます。
  3. 化学療法:抗がん剤を用いて増殖を抑制します。
  4. 薬物療法:症状緩和のため、抗けいれん薬や、脳浮腫を抑えるデキサメタゾン(ステロイド剤)、利尿剤(フロセミド)などが処方されます。

CT scan of a brain tumor, with its diameters marked as an X. There is hypoattenuating (dark) peritumoral edema in the surrounding white matter, with a "finger-like" spread.

脳腫瘍の概要まとめ

脳腫瘍の主要タイプと特徴
分類 主な腫瘍名 主な発生組織 特徴
原発性(膠細胞系) グリオーマ アストロサイト等 浸潤性が強く、悪性度が高いものが多い
原発性(膜系) 髄膜腫 髄膜 多くが良性で、緩徐に増大する
原発性(腺系) 下垂体腺腫 下垂体 ホルモン異常を伴うことがある
二次性 転移性脳腫瘍 他臓器(肺など) 他部位のがんが脳へ転移したもの

Frequently Asked Questions

良性の脳腫瘍であれば全く心配ないのでしょうか?

良性腫瘍であっても、脳という閉鎖された空間にあるため、増大して周囲の重要な組織を圧迫すれば、悪性腫瘍と同様に深刻な神経症状を引き起こす可能性があります。そのため、経過観察や手術による摘出が必要な場合があります。

CT検査の放射線で脳腫瘍になる可能性はありますか?

統計的に、CTスキャンの放射線が脳腫瘍の発症に関与している可能性が指摘されています。ただし、そのリスクは非常に低く、数千人が曝露してようやく1例発生するかというレベルであるため、検査の医学的メリットとリスクを天秤にかけて判断されます。

脳腫瘍の予後はどのように決まりますか?

腫瘍の組織型(良性か悪性か)、グレード(悪性度)、発生部位、および患者さんの年齢や全身状態によって大きく異なります。例えば、一部の低悪性度グリオーマは比較的長期の生存が見込めますが、膠芽腫(グリオブラストーマ)のような高悪性度腫瘍は治療が困難な傾向にあります。

子供に多い脳腫瘍は大人と異なりますか?

はい、異なります。子供の場合、髄芽腫(ずいがしゅ)や毛様細胞性アストロサイトーマなどの小児特有の腫瘍が発生しやすい傾向にあります。大人の場合はグリオーマや髄膜腫が多く見られます。

最新の治療研究ではどのようなことが行われていますか?

免疫療法や、ウイルスを用いてがん細胞を攻撃するウイルス療法(水疱性口炎ウイルスなど)の研究が進んでいます。また、液体生検(リキッドバイオプシー)による非侵襲的な検出方法の開発も期待されています。