ビンガム塑性体の特性と流体解析における摩擦係数の算出
私たちの身の回りには、ある一定の力が加わるまでは固体のままでありながら、それを超えると液体のように流れ出す不思議な物質が存在します。材料科学においてこのような挙動を示す粘塑性材料をビンガム塑性体(Bingham plastic)と呼びます。この概念は1916年にユージン・C・ビンガムによって数学的に定義され、降伏応力を持つ材料の基礎的なモデルとして広く利用されています。
代表的な例としては、歯磨き粉が挙げられます。チューブを軽く押しただけでは中身は出てきませんが、ある程度の圧力をかけると、まとまった塊としてスムーズに押し出されます。また、マヨネーズなどの食品や、掘削エンジニアリングで使用される泥水、スラリー(泥漿)のハンドリングなど、産業分野でも重要な役割を果たしています。
ビンガム塑性体の大きな特徴は、低ストレス下では剛体のように振る舞い、高ストレス下では粘性流体として流動することです。このため、ニュートン流体(水など)とは異なり、表面に盛り上がりや鋭いエッジを維持できるという性質を持っています。

Key Facts
- 降伏応力:流動を開始するために必要な最小限のせん断応力のこと。
- 二つのパラメータ:流動特性を記述するには「降伏応力」と「塑性粘度」の2つが必要。
- 内部構造:粘土粒子やポリマーなどの大きな分子が相互作用し、弱い固体構造(偽体)を形成していることが原因。
- 非ニュートン特性:応力が降伏点に達するまでせん断速度はゼロであり、それを超えると線形に増加する。
流動メカニズムの解説
ニュートン流体との違い
一般的なニュートン流体の場合、管の一端に圧力をかければ、そのストレス(せん断応力)に比例して流速が増加します。しかし、ビンガム塑性体は異なります。まず「降伏応力」と呼ばれる閾値に達するまで、物質は全く流れません。この閾値を超えた瞬間から、せん断応力の増加に伴って流動速度が上昇し始めます。

現代的な定義と物理的背景
現在の解析では、縦軸にせん断応力、横軸にせん断速度をとったグラフで表現されます。ニュートン流体では原点を通る直線の傾きが「粘度」となりますが、ビンガム塑性体では、グラフが横軸から離れた位置(降伏応力点)から始まり、その直線の傾きを塑性粘度と呼びます。

この挙動が起こる物理的な理由は、液体内部に存在する粒子や高分子がネットワークのような弱い構造を作っているためです。外部から十分な力が加わってこの構造が破壊されると、粒子は粘性力に従って移動し始めます。また、ストレスがなくなれば再び粒子同士が結合し、元の構造に戻ります。
配管設計における摩擦係数の算出
工業的な配管ネットワークにおいて、圧力損失を計算することはポンプのコスト見積もりや流量決定のために不可欠です。非ニュートン流体であるビンガム塑性体の摩擦係数(f)を正確に求めることは困難であるため、通常は近似式が用いられます。基本となる圧力損失の計算には、ダルシー・ワイスバッハの式が適用されます。
層流状態の解析
完全に発達した層流における摩擦損失は、バッキンガム・ライナー式によって記述されます。この計算には、流体の慣性と粘性の比を示すレイノルズ数(Re)と、降伏応力の影響を考慮したヘドストロム数(He)という2つの無次元数が用いられます。
乱流状態の解析
乱流状態においては、ダービーとメルソンによる経験式が利用されます。この式はファンニングの摩擦係数に基づいているため、ダルシーの摩擦係数として利用する場合は値を4倍にする必要があります。
実用的な近似式
バッキンガム・ライナー式は4次方程式であるため、直接解くことは複雑です。そのため、以下のような効率的な近似手法が開発されました。
- Swamee–Aggarwal式:層流におけるダルシー摩擦係数を直接算出でき、実験データとの整合性も高い手法です。
- Danish–Kumar解:アドミアン分解法を用いて導出された明示的な計算手順です。
全流動領域をカバーする統合式
ダービーとメルソンは、層流と乱流の両方の特性を組み合わせ、あらゆる流動領域で有効な単一の摩擦係数式を提案しました。なお、ビンガム塑性体の摩擦係数は管壁の粗さに影響されにくいため、相対粗さはパラメータとして含まれません。
特性まとめ
| 比較項目 | ニュートン流体 | ビンガム塑性体 |
|---|---|---|
| 流動開始条件 | わずかな応力で流動 | 降伏応力以上の応力が必要 |
| 必要パラメータ | 粘度のみ | 降伏応力 + 塑性粘度 |
| 表面形状 | 平滑(流動して平らになる) | ピークやリッジ(盛り上がり)を維持 |
| 内部構造 | 単純な分子構造 | 粒子やポリマーによるネットワーク構造 |
Frequently Asked Questions
ビンガム塑性体とは具体的にどのような物質ですか?
ある一定の力(降伏応力)が加わるまでは固体のままであり、その力を超えると液体のように流れ出す性質を持つ物質です。身近な例では、歯磨き粉やマヨネーズなどが挙げられます。
なぜ降伏応力という現象が起こるのですか?
液体の中に含まれる粘土粒子や高分子(ポリマー)などが互いに作用し合い、内部に弱い固体のような構造を形成しているためです。この構造を破壊するのに必要な力が降伏応力となります。
塑性粘度と通常の粘度の違いは何ですか?
通常の粘度は、応力とせん断速度の単純な比例係数です。一方、塑性粘度は、降伏応力を超えた後の「応力の増加分」に対する「せん断速度の増加分」の比率を指します。
配管設計で摩擦係数を計算する際に注意すべき点はありますか?
ビンガム塑性体は非ニュートン流体であるため、単純なレイノルズ数だけでなく、降伏応力を考慮したヘドストロム数を用いる必要があります。また、流動状態が層流か乱流かによって適用する計算式を使い分ける必要があります。
管の表面が粗いことは流動に影響しますか?
一般的に、ビンガム塑性体の摩擦係数は管の相対粗さに対して感度が低いため、多くの計算モデルでは粗さのパラメータは無視されます。
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