太陽に最も近い惑星である水星は、その過酷な環境ゆえに詳細な調査が困難な天体です。この未知なる世界を解明するため、欧州宇宙機関(ESA)と日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が手を取り合い、壮大な探査計画「ベピコロンボ」を推進しています。本ミッションは、水星の成り立ちから内部構造、そして磁場に至るまで、惑星科学における根本的な問いに答えを出すことを目的としています。
Key Facts
- 共同運用:ESA(欧州宇宙機関)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)による国際プロジェクト。
- 構成:水星惑星周回機(MPO)と水星磁気圏周回機(Mio)の2機からなる複合機。
- 打ち上げ:2018年10月20日、アリアン5ロケットによりギアナ宇宙センターから射出。
- 目的:水星の地質、内部構造、外圏(エグゾスフィア)、および磁気圏の包括的な調査。
- 到達予定:2026年11月に水星周回軌道への投入を計画。
ミッションの目的と科学的アプローチ
ベピコロンボの最大の使命は、親星である太陽に極めて近い位置にある水星が、どのように誕生し、進化してきたのかを明らかにすることです。具体的には、地表のクレーターや地質組成の分析を通じて惑星の歴史を辿り、内部構造や核の状態を調査します。
また、水星が持つ薄い大気層である外圏(エグゾスフィア)の組成やダイナミクス、そして太陽風との相互作用によって形成される磁気圏の構造についても詳細な観測を行います。特に、水星がなぜ独自の磁場を持つのかという謎の解明は、本ミッションの核心的な目標の一つです。
宇宙機の設計と高度なコンポーネント
水星への到達には、極めて高い精度と耐久性が求められます。そのため、ベピコロンボは役割の異なる複数のモジュールで構成されています。
まず、輸送を担うのが水星輸送モジュール(MTM)です。ここには高効率なカウフマン・イオンエンジンが4基搭載されており、キセノンを推進剤として長期間の加速と減速を制御します。また、メインとなる水星惑星周回機(MPO)は、地質や組成を調べるための11種類の科学観測装置を搭載しています。



さらに、MPOとは別に水星磁気圏周回機(Mio)が搭載されており、こちらは磁場やプラズマ環境の測定に特化した5つの観測グループを備えています。Mioは最終的にMPOから分離し、異なる軌道から水星を観測することで、より立体的なデータ収集を可能にします。

水星への長い旅路:重力アシストの戦略
水星は太陽に近いため、単純に直進して減速させるには膨大な燃料が必要です。そこでベピコロンボは、地球や金星、そして水星自身の重力を利用して速度を調整する重力アシスト(スイングバイ)という高度な航法を採用しています。
2020年には金星への接近を行い、その後、数回にわたる水星へのフライバイ(接近通過)を繰り返すことで、徐々に速度を落とし、軌道を最適化しています。この緻密なスケジュールにより、2026年の軌道投入に向けた準備が進められています。






ミッション概要まとめ
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 運用機関 | ESA / JAXA |
| 打ち上げ日 | 2018年10月20日 |
| 総打ち上げ質量 | 4,100 kg |
| 主要構成機 | MPO(惑星周回機)、Mio(磁気圏周回機)、MTM(輸送モジュール) |
| MPO 軌道高度 | 近水点 480 km / 遠水点 1,500 km(予定) |
| Mio 軌道高度 | 近水点 590 km / 遠水点 11,640 km(予定) |
| 主要推進系 | キセノン・イオンエンジン(MTM搭載) |

Frequently Asked Questions
なぜ水星への到達にこれほど時間がかかるのですか?
水星は太陽に非常に近く、強力な重力に引き寄せられるため、単純に近づくと速度が出すぎてしまい、惑星の周回軌道に入ることができません。そのため、金星や水星の重力を利用して段階的に速度を落とす複雑なルートを辿る必要があり、結果として長い航行期間を要します。
MPOとMioの役割の違いは何ですか?
MPO(水星惑星周回機)は主に水星の表面地質、内部構造、化学組成などの「物質的な側面」を調査します。一方、Mio(水星磁気圏周回機)は磁場や太陽風との相互作用といった「空間的な環境」の観測に特化しています。
イオンエンジンを使うメリットは何ですか?
イオンエンジンは、従来の化学ロケットに比べて燃費(比推力)が極めて高く、少ない燃料で長期間にわたって加速・減速を続けることができます。これにより、水星のような到達が困難な天体への精密な軌道制御が可能になります。
水星の「外圏(エグゾスフィア)」とは何ですか?
外圏とは、通常の惑星のような厚い大気層ではなく、ガス分子が非常にまばらに存在し、互いに衝突することがほとんどない極めて薄い大気層のことです。ベピコロンボはこの層の成分を分析し、水星の表面からどのように物質が放出されているかを探ります。
References
- "BepiColombo Factsheet". ESA. 6 July 2017. Retrieved 6 July 2017.
- "BepiColombo's first image from space". ESA. 10 October 2018.
- "MIO/BepiColombo". JAXA. 2018. Retrieved 9 July 2018.
- @JAXA_MMO (25 May 2026). "On November 21, 2026, we'll gently be captured by Mercury's gravity and enter orbit" () (in Japanese) – via .
On November 21, 2026, we'll gently be captured by Mercury's gravity and enter orbit. And then on December 10, 2026, I'll separate from MPO and stand on my own
- Amos, Jonathan (18 January 2008). "European probe aims for Mercury". BBC News. Archived from the original on 29 September 2009. Retrieved 21 January 2008.
- Rothery, David (11 July 2017). "The BepiColombo spacecraft is ready to solve the many mysteries of Mercury". The Conversation. Retrieved 17 June 2026.
- Clarke, Stephen (17 July 2017). "BepiColombo Mercury mission tested for journey into 'pizza oven'". Spaceflight Now. Retrieved 8 June 2026.
- "BepiColombo Launch Rescheduled for October 2018". ESA. 25 November 2016. Retrieved 14 December 2016.
- "BepiColombo faces 11-month delay on journey to Mercury". . Retrieved 7 July 2026.
- Hayakawa, Hajime; Maejima, Hironori (2011). BepiColombo Mercury Magnetospheric Orbiter (MMO) (PDF). 9th IAA Low-Cost Planetary Missions Conference. 21–23 June 2011, Laurel, Maryland. Archived from the original (PDF) on 23 February 2020. Retrieved 15 August 2011.
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