20世紀初頭、アメリカの作家エドガー・ライス・バロウズは、想像力豊かな火星の姿を世に送り出しました。それがバーソーム(Barsoom)と呼ばれる架空の火星です。この世界は、単なる科学的な推測を超えた「惑星ロマンス」というジャンルを確立し、後のSF作品に多大な影響を与えました。
物語の主人公は、19世紀後半のアメリカ南北戦争に従軍した元兵士ジョン・カーターです。彼は不可解な現象によって火星へと転送され、そこで滅びゆく世界の過酷な運命と、美しき王女デジャ・トーリスとの情熱的な恋に巻き込まれていきます。

Key Facts
- 作者:アメリカのパルプフィクション作家、エドガー・ライス・バロウズ。
- 作品数:1912年から1948年(一部1964年)にかけて発表された全11冊の小説シリーズ。
- ジャンル:冒険とロマンスを融合させた「惑星ロマンス」。
- 設定:水が枯渇し、大気が薄くなっていく「死にゆく惑星」としての火星。
- 主人公:地球人ジョン・カーター。火星の低重力により超人的な身体能力を得る。
バーソームの世界観と生態系
バロウズが描いたバーソームは、多様な人種と高度ながらも衰退しつつある文明が共存する場所です。火星の住民は肌の色によって分類され、それぞれが異なる文化や社会的地位を持っています。
火星の多様な種族
物語には、緑色の肌を持つ巨漢のグリーン・マーシャンや、人間に近い姿のレッド・マーシャン、そして謎に包まれたホワイトやブラックのマーシャンなどが登場します。彼らはそれぞれ独自の都市や領土を持ち、絶えず権力争いや戦争を繰り広げています。

また、火星の野生動物も独特です。特に「ソート(Thoat)」と呼ばれる乗り物は、火星の移動手段として欠かせない存在です。

特異な生物「プラントメン」
物語の中でも特に衝撃的なのが、バレー・ドールに生息するプラントメンです。彼らは身長3メートルを超える巨体で、顔に口がなく、代わりに手のひらに口を持つという異形の怪物です。巡礼者たちを襲い、その血を吸うという恐ろしい習性を持っています。
科学的背景とテクノロジー
バーソームの設定には、当時の天文学的な推測が色濃く反映されています。特にパーシバル・ローウェルが提唱した「火星の運河」説が大きなインスピレーションとなりました。ローウェルは、火星人が生き残るために極地の水を運ぶ巨大な運河を建設したと考えていました。

しかし、現実の火星は探査機バイキングが明らかにしたように、乾燥し生命の気配がない荒涼とした世界でした。

失われゆく大気と高度な技術
バーソームの文明は、大気維持プラントという巨大な施設によって、薄くなっていく空気を補いながら生存しています。また、太陽光線を利用した反重力装置による飛行艇が普及しており、時速約267kmで空を駆け抜けます。

シリーズの構成と展開
バーソーム・シリーズは、1912年の雑誌連載から始まり、その後数十年にわたって拡大しました。物語はジョン・カーターの視点だけでなく、他の登場人物や三人称視点でも語られます。
| 順序 | タイトル(邦題例) | 小説出版年 | 主な語り手 |
|---|---|---|---|
| 1 | 火星の王女 (A Princess of Mars) | 1917年 | ジョン・カーター |
| 2 | 火星の神々 (The Gods of Mars) | 1918年 | ジョン・カーター |
| 3 | 火星の覇者 (The Warlord of Mars) | 1919年 | ジョン・カーター |
| 6 | 火星の精神外科医 (The Master Mind of Mars) | 1928年 | ユリシーズ・パクストン |
| 10 | ガソールのリアナ (Llana of Gathol) | 1948年 | ジョン・カーター |
物語が進むにつれ、ジョン・カーターとデジャ・トーリスの間に生まれた子孫たちが、火星の運命を担う様子も描かれます。

後世への影響とメディア展開
バロウズの想像力は、アーサー・C・クラークのような後世のSF作家に強い影響を与えました。また、そのダイナミックな世界観は、コミックや映画などの視覚メディアとも非常に相性が良く、数多くの翻案作品が制作されています。

コミックでは、ダイナマイト・エンターテインメント社やマーベル・コミックスなどが現代的な解釈で描き直し、さらには『ターザン』シリーズとのクロスオーバー作品も制作されるなど、キャラクターとしての生命力を維持し続けています。

また、火星侵略をテーマにしたH.G.ウェルズの『宇宙戦争』など、同時期の火星フィクションの中でも、バーソームは「住める世界としての火星」をロマンチックに描いた稀有な例と言えるでしょう。

さらに、作中に登場する戦略ゲーム「ジェタン(Jetan)」や、独特の社会構造、そして異星人との交流というテーマは、現代のファンタジーやRPGの原型の一つになったとも考えられています。

Frequently Asked Questions
バーソームとは具体的に何を指しますか?
エドガー・ライス・バロウズの小説シリーズに登場する、架空の火星の名称です。水が枯渇し、文明が衰退しつつある過酷な環境の惑星として描かれています。
ジョン・カーターが火星で強くなった理由は?
火星の重力が地球よりも著しく低いため、地球で鍛えられた彼の身体能力が相対的に強化され、驚異的な跳躍力や筋力を発揮できるようになったためです。
このシリーズは科学的に正確なのですか?
いいえ、科学的な正確さよりも物語的なロマンを重視しています。当時のパーシバル・ローウェルの説を参考にしていますが、現在の天文学的知見とは大きく異なります。
作品は全部で何冊ありますか?
メインとなる小説シリーズは全11冊です。また、関連する短編や、後に発表されたジュピター(木星)を舞台にした物語なども存在します。
どのようなジャンルの作品に影響を与えましたか?
「惑星ロマンス」というジャンルを確立し、後のスペースオペラや、異世界転移ものの物語、さらには現代のSF映画(例:アバターなど)のコンセプトにも影響を与えたと言われています。
References
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