地球上のいたるところに点在するバッドランズ(Badlands)は、その名の通り「悪い土地」を意味する荒涼とした地形です。ここは、柔らかい堆積岩や粘土質の土壌が激しく浸食されることで形成され、植物がほとんど生えない急峻な斜面や深い溝が連なる独特の景観が広がっています。農業には不向きで移動も困難な場所ですが、その造形美は世界中の人々を魅了し、地質学的な研究の宝庫となっています。
Key Facts
- 形成要因:不浸透性で浸食されやすい地層、乏しい植生、そして稀に降る激しい雨の組み合わせで形成される。
- 特徴的な地形:深い排水路(ガリー)や急峻な尾根、そして「フードゥー」と呼ばれるキノコ状の岩柱が見られる。
- 排水密度:非常に高く、1平方キロメートルあたり48〜464kmもの排水路が存在する。
- 分布:南極大陸を除くすべての大陸に存在し、未固結の堆積物がある地域に多い。
- 人為的要因:過放牧や汚染による植生破壊が、人工的なバッドランズを生むことがある。
バッドランズを形作る地形的特徴
バッドランズの最大の特徴は、水による浸食が極限まで進んだ「バッドランズ地形」にあります。ここでは、非常に多くの深い排水路が刻まれており、それらが短い急斜面の尾根(分水嶺)によって隔てられています。地質学では、単位面積あたりの排水路の総延長を「排水密度」と呼びますが、バッドランズはこの数値が極めて高く、結果として谷や峡谷が密集した険しい風景が作り出されます。
また、砂岩などの浸食に強い岩層が上部に残ると、それが「キャップロック(蓋岩)」となり、その下の柔らかい層だけが削られることで、ビュート(孤立丘)やフードゥー(岩柱)といった象徴的な造形が生まれます。



形成のメカニズムと地質学的プロセス
バッドランズが誕生するには、特定の条件が揃う必要があります。まず、地表が泥岩や蒸発岩などの「水を通しにくく、かつ削られやすい」素材でできていることが重要です。そこに植生が少ない状態で激しい雨が降ると、水は地中に浸透せず地表を激しく流れ、急速に溝を深くしていきます。特にベントナイト粘土が含まれている場合、浸食速度はさらに加速します。
例えば、アメリカのバッドランズ国立公園では、年間約25mmという非常に速いペースで浸食が進んでいると推定されています。また、地表だけでなく地下にパイピング(水が流れる管状の空洞)が形成されることもありますが、これは地域によって異なります。


レゴリス(風化層)の構造と植生の関係
バッドランズでは、岩盤上の堆積層であるレゴリスが極めて薄いか、あるいは全く存在しません。乾燥地帯の典型的な構造では、最上層に数センチのシルトや砂の層(時に「ポップコーン状」の凝集塊となる)があり、その下に薄い破片層を経て、未風化の頁岩(けつがん)へと繋がっています。
このような土壌の欠如が、植物の定着を困難にしています。植生がないため地表を保護するものがなく、それがさらに浸食を促進するという悪循環が生まれます。一部の地域では藻類や地衣類による生物学的地殻が見られることもあります。


自然の猛威か、人間の過ちか:人為的バッドランズ
多くのバッドランズは自然現象によるものですが、人間の活動が原因で形成されるケースもあります。過放牧、酸性雨、あるいは鉱山排水によって地表の植生が破壊されると、土壌が露出し、急速な浸食が始まります。カナダのチェルトナム・バッドランズは、かつての不適切な農業利用(主に家畜の放牧)が原因で形成された例として知られています。また、スペインのラス・メドゥラスのような古代の金鉱山跡も、採掘活動による地形変化の例です。


世界各地の代表的なバッドランズ
バッドランズは世界中に分布しており、それぞれの地域で異なる色彩や形態を見せています。中国の張掖(ちょうえき)国家地質公園では色鮮やかな岩層が広がり、イタリアでは「カランキ」と呼ばれ、スペインやトルコ(カッパドキアなど)にも広大なエリアが存在します。北米では、カナダのドラムヘラーやアメリカのサウスダコタ州、ノースダコタ州に大規模な形成地があり、古生物学的な研究の重要な拠点となっています。

| 地域 | 代表的な場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 北アメリカ | バッドランズ国立公園(米)、ドラムヘラー(加) | 広大な堆積層と化石の宝庫 |
| アジア | 張掖国家地質公園(中)、ガレバタ(印) | 色彩豊かな岩層やモンスーン気候の影響 |
| ヨーロッパ | カランキ(伊)、バルデナス・レアレス(西) | 独特の名称(カランキ)や乾燥地帯の造形 |
| 南アメリカ | 月の谷(アルゼンチン) | 月面のような幻想的な風景 |
| オセアニア | プタンギルア・ピナクルズ(ニュージーランド) | 礫岩の浸食による鋭い尖塔群 |
Frequently Asked Questions
バッドランズという名前の由来は何ですか?
カナダのフランス人毛皮商が、移動困難な地形を指して「les mauvaises terres(悪い土地)」と呼んだことが始まりとされています。また、先住民ラコタ族がこの地を「mako sica(悪い土地、または浸食された土地)」と呼んでいた影響もあると考えられています。
農業に利用することはできないのでしょうか?
基本的に不可能です。土壌(レゴリス)が極めて薄く、栄養分が乏しいため、作物を育てることはできません。一部の地域では再植林などの環境回復策が試みられていますが、元の生態系に戻るには数十年という長い年月が必要です。
なぜあのような不思議な形の岩柱(フードゥー)ができるのですか?
上部に浸食に強い硬い岩層(キャップロック)があり、その下に柔らかい岩層があるためです。雨が降ると下の柔らかい層だけが優先的に削られ、上の硬い岩が傘のように残ることで、キノコのような独特な形状になります。
バッドランズはどこにでもありますか?
南極大陸を除くすべての大陸に存在します。特に、固まっていない堆積物が大量にあり、植生が少なく、時折激しい雨が降る地域で形成されやすい傾向があります。
References
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