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耐磁時計の仕組みと歴史磁気から精度を守る技術の進化

🗓 2026年8月13日

私たちの生活は、スマートフォンやPC、家電製品など、目に見えない磁界に囲まれています。精密機械である機械式時計にとって、これらの磁気は精度を乱す大きな要因となります。そこで開発されたのが、磁気の影響を最小限に抑えて正確な時を刻み続ける耐磁時計です。

本記事では、耐磁時計がどのような基準で定義され、どのような技術によって実現しているのか、そして時計史における進化について詳しく解説します。

Key Facts

  • ISO 764規格:4800 A/mの磁界にさらされても、日差±30秒以内に収まることが耐磁時計の基準。
  • 2つのアプローチ:磁気に反応しない「非磁性素材」の使用と、磁気を遮断する「ケースによる保護」がある。
  • 歴史的転換点:1915年にヴァシュロン・コンスタンティンが初の耐磁懐中時計を製作し、1930年にはティソが初の耐磁腕時計を開発。
  • 現代の基準:METAS N001などの厳格な認証では、1.5テスラ(15,000ガウス)という極めて強い磁界への耐性が求められる。

耐磁性能を定義する国際規格

時計が「耐磁である」と称するためには、客観的な基準が必要です。国際標準化機構(ISO)が定めたISO 764(またはドイツ規格のDIN 8309)では、4800 A/mの直流磁界に曝露させた後、時計の精度がテスト前と比べて1日あたり±30秒の範囲内に維持されていることが条件となっています。

また、この基本基準を超える高い耐磁性能を持つモデルについては、ISO 764の附属書Aに基づき、より高い磁場強度への耐性が個別に表示される仕組みになっています。

磁気を克服する2つの技術的アプローチ

時計を磁気から守る方法は、大きく分けて「素材で対策する」方法と「構造で遮断する」方法の2種類が存在します。

1. 非磁性合金の採用

ムーブメントの可動部品に、磁場の影響を受けにくい特殊な合金を使用する方法です。代表的な素材には以下のようなものがあります。

  • インバー (Invar):鉄・ニッケル・炭素・クロムの合金。
  • グルシデュア (Glucydur):ベリリウム青銅合金。
  • ニヴァロックス (Nivarox):鉄・ニッケル・クロム・チタン・ベリリウムの合金。
  • エリンバー (Elinvar):インバーに似た特性を持ち、特に温度変化への耐性に優れる合金。

1960年代の多くのスイス製時計では、グルシデュア製の天輪(バランスホイール)とニヴァロックス製のひげゼンマイが標準的に採用されていました。また、アンクルや脱進機などの重要部品にも非磁性金属が使われています。

2. 磁気遮蔽(シールド)構造

ムーブメント全体を、磁気透過率の高い(磁気を導きやすい)素材のケースで包み込む方法です。さらに、内部に軟鉄製のカバー(ソフトアイアン・クラスプ)を設けることで、時計内部に磁場が形成されるのを物理的に防ぎます。

耐磁時計の歩みとブランドの挑戦

耐磁技術の探求は1846年にまで遡ります。ヴァシュロン・コンスタンティンは初期から研究に取り組んでおり、パラジウム製の天輪やひげゼンマイ、レバーシャフトを採用することで、数十年後に初の耐磁時計を完成させました。その後、1915年には初の耐磁懐中時計を、1930年にはティソが世界初の耐磁腕時計を世に送り出しました。

また、物理学者のシャルル・エドゥアール・ギヨームによるインバー(1896年)およびエリンバー(1920年ノーベル物理学賞受賞後)の発見は、耐磁時計の精度向上に決定的な役割を果たしました。

主要ブランドによる革新的な事例

  • IWC:1989年に登場した「インゲニール(Ref. 3508)」は、最大500,000 A/mという極めて強力な磁界に耐える設計を実現しました。
  • ロレックス:1954年に、原子力研究や医療現場などの強磁場環境で働く専門職向けに「ミルガウス(Model 6541)」を発売。80,000 A/mの磁界内で1,000ガウスの耐磁性能を誇りました。2007年には現代的なモデル(116400)が再導入されています。
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  • オメガ:2013年に発表された「シーマスター」の一部モデルでは、ケースによる遮蔽ではなく、ムーブメント自体に非鉄素材を厳選して採用。1.5テスラ(15,000ガウス)の磁場にさらされても精度を維持することを証明しました。
  • ジン (Sinn):プロ仕様のミッションタイマーにおいて、文字盤やムーブメントを内蔵ケースで完全に包み込む構造を採用し、1,000ガウス(80,000 A/m)までの耐磁性を確保しています。

現代の認証基準:METAS N001

現在、最高峰の耐磁性能を証明するのがスイス連邦計量局(METAS)のMETAS N001認証です。この基準では、1.5テスラ(15,000ガウス)の強力な磁場にさらされた後、ムーブメントが停止せず、かつ日差の変動が0〜5秒以内に収まることが厳格に求められます。

こうした技術の普及により、現在ではダイバーズウォッチ(ISO 6425準拠)においても、防水性や耐衝撃性と並んで耐磁性能が重要な要素となっています。特に電子エンジニアなど、日常的に強い磁場に接する職業の方々に重宝されています。

耐磁性能のまとめ

主要な耐磁基準とアプローチの比較
項目 ISO 764 (基本基準) METAS N001 (高度基準) 特殊モデル (例: IWC)
耐磁強度 4,800 A/m 1.5テスラ (15,000ガウス) 最大 500,000 A/m
許容誤差 日差 ±30秒以内 日差 0〜5秒の変動以内 モデルにより異なる
主な手法 非磁性素材・遮蔽 高度な非鉄素材の採用 強力な磁気遮蔽構造

Frequently Asked Questions

耐磁時計とは具体的にどのような時計のことですか?

一定レベルの磁場にさらされても、時計の精度(進みや遅れ)に大きな影響が出ないように設計された時計のことです。国際規格ISO 764では、4800 A/mの磁界で日差±30秒以内に収まることが基準となっています。

なぜ時計は磁気に弱いのでしょうか?

機械式時計の内部にあるひげゼンマイなどの部品が磁化されると、部品同士が引き合ったり反発したりして、正常な振動が妨げられるためです。これにより、時計が急激に早くなったり、遅くなったりします。

「非磁性素材」と「磁気遮蔽」の違いは何ですか?

非磁性素材は、部品そのものを磁気に反応しない合金(ニヴァロックスなど)で作る方法です。一方、磁気遮蔽は、ムーブメントを軟鉄などの磁気を通しやすい素材のケースで囲い、磁線を外側に逃がして内部に磁場が入らないようにする方法です。

現代の生活で耐磁性能は本当に必要ですか?

はい。現代社会にはスピーカー、タブレット、磁気ストラップなど、強力な磁石を伴う製品が多く存在します。特に電子機器を扱う専門職の方や、日常的に多くのガジェットに囲まれている方にとって、耐磁性能は時計の寿命と精度を維持するために非常に有用です。

METAS認証を受けている時計はどのくらい強い磁気に耐えられますか?

METAS N001認証を受けた時計は、1.5テスラ(15,000ガウス)という非常に強力な磁場に耐えることができます。これは一般的な耐磁時計の基準を遥かに上回る性能であり、極めて高い信頼性を備えています。

References