宇宙の歴史や地球の深部を解き明かす鍵となる岩石にアノーソサイト(斜長岩)があります。この岩石は、その大部分を斜長石という鉱物が占める非常に特殊な火成岩であり、地球上だけでなく月や火星などの天体にも存在することが確認されています。なぜこれほどまでに特定の鉱物が濃縮された岩石が形成されるのか、その成因については今なお地質学的な議論が続いています。
Key Facts
- 主成分:体積の90%から100%が斜長石(プランジオクレーズ)で構成される。
- 副成分:輝石、イルメナイト、磁鉄鉱、かんらん石などの有色鉱物が少量(0〜10%)含まれる。
- 分布:地球の地殻だけでなく、月の高地(表面の約80%)や火星にも存在。
- 経済的価値:チタン鉱石(イルメナイト)の供給源や、装飾石(ラブラドライト)として利用される。
- 成因の謎:マグマ中での密度の差による結晶の分離(浮上)が主なモデルとされる。
アノーソサイトの基礎知識と分類
アノーソサイトは、マグマが地下深くでゆっくりと冷えて固まった深成岩の一種です。最大の特徴は、組成のほとんどが斜長石である点にあります。少量の有色鉱物(マフィック鉱物)が混ざることで、岩石としての個性が決まります。
地球上のアノーソサイトは、形成された年代や環境によって主に以下の5つのタイプに分類されます。
- 太古代(Archean)アノーソサイト:非常に古く、粗い結晶を持つタイプ。
- 原生代(Proterozoic)アノーソサイト:地球上で最も一般的で、巨大な岩体(マッシフ)を形成する。
- 層状貫入岩内の層:ブッシュフェルトなどの特定の地質構造に見られる。
- 中央海嶺およびトランスフォーム断層型:海洋底の活動に関連して形成。
- 捕獲岩(ゼノリス):花崗岩や玄武岩などの他の岩石に取り込まれた形態。
原生代アノーソサイトの詳細とAMCG複合体
原生代(約25億年前〜5.4億年前)に形成されたアノーソサイトは、しばしば広大な岩体として現れます。カナダのレイン地域の事例では、その範囲が20,000平方キロメートルに及ぶこともあります。これらの岩体は、単独で存在するのではなく、マンジェライト、チャノック岩、花崗岩といった他の岩石と共にAMCG複合体と呼ばれるグループを形成することが一般的です。
外観は灰色や青みがかった色をしており、新鮮な破断面ではラブラドレッセンスと呼ばれる特有の遊色効果(虹色の輝き)を示すことがあります。これは、ラブラドライトというカルシウムに富む斜長石が含まれているためです。

高アルミ輝石メガクリスト(HAOM)の謎
一部の原生代アノーソサイトには、HAOMと呼ばれる巨大な斜方輝石の結晶が含まれています。これらは通常よりもアルミニウム含有量が高く、周囲のアノーソサイトよりも古い年代を示す傾向があります。この結晶が下部地殻で形成され、後にマグマによって運ばれたのか、あるいは急速な結晶化によるものなのかについては、現在も研究が進められています。
アノーソサイトが形成されるメカニズム
地質学における最大の論点の一つが「アノーソサイト問題」です。通常、マントルから生成される玄武岩質マグマが結晶化すると、斜長石だけでなく多くの有色鉱物も同時に生成されます。しかし、アノーソサイトには有色鉱物が極めて少ないため、何らかの分離プロセスがあったと考えられています。
有力な説の一つは、マグマ溜まりの中で結晶化した斜長石が、周囲の液体よりも密度が低いために上方に浮上し、上部に濃縮されたというものです。一方で、同位体分析の結果からは、マントル由来の成分だけでなく、地殻物質が大量に混入した可能性も示唆されており、単なる物理的な分離だけでは説明できない複雑なプロセスが関与していると考えられています。
地球外のアノーソサイト:月と火星
アノーソサイトは地球だけの物語ではありません。月の表面の約80%を占める明るい色の「高地」は、主に月アノーソサイトで構成されています。これは初期の月が巨大なマグマの海(マグマオーシャン)に覆われていた際、斜長石が浮上して地殻を形成した証拠であると考えられています。
また、近年の研究により火星にもアノーソサイトが存在することが確認されており、惑星の分化過程を理解するための重要な指標となっています。
産業的利用と経済的価値
アノーソサイトはその物理的・化学的特性から、さまざまな産業分野で活用されています。
| 用途 | 根拠となる特性 | 具体的な製品・目的 |
|---|---|---|
| 鉱物資源 | イルメナイトの含有 | チタンの抽出 |
| 装飾・建築 | ラブラドライトの遊色効果 | 宝石、高級建築材 |
| 工業材料 | 低アルカリ・耐熱性 | グラスファイバー、航空宇宙部品 |
| 金属生産 | アルミニウム含有量(太古代型) | ボーキサイトに代わるアルミ原料 |
Frequently Asked Questions
アノーソサイトと普通の花崗岩は何が違うのですか?
花崗岩は石英やカリ長石を多く含みますが、アノーソサイトはほぼ全面的に斜長石で構成されており、石英をほとんど含みません。また、形成されるマグマの起源やプロセスも大きく異なります。
なぜ月にはアノーソサイトが多いのですか?
初期の月全体が溶融した「マグマオーシャン」状態にあった際、軽い斜長石が海面へと浮上し、それが固まって月の地殻(高地)を作ったためと考えられています。
ラブラドライトの輝きはなぜ起こるのですか?
これはラブラドレッセンスと呼ばれる現象で、斜長石の結晶内部で成分が微細に分離し、光が干渉することで虹色に輝いて見えます。
アノーソサイトからアルミニウムを採掘できるのは本当ですか?
はい。特に太古代のアノーソサイトはアルミニウムに富んでいるため、従来のボーキサイトに代わるアルミニウム資源としての可能性が検討されています。
アノーソサイトの上に形成される土壌に特徴はありますか?
地域によりますが、例えばアメリカのアディロンダック山脈では砂質のポドゾル土壌が発達し、サンガブリエル山脈ではカオリナイトなどの1:1型粘土鉱物が優勢になる傾向があります。
References
- Sen, Gautam (2014). "Anorthosites and Komatiites". Petrology. Springer, Berlin, Heidelberg. pp. 261–276. :10.1007/978-3-642-38800-2_12. .
- Ashwal, L. D. (2010). "The Temporality of Anorthosites". The Canadian Mineralogist. 48 (4): 711–728. :10.3749/canmin.48.4.711.
- Ashwal, Lewis D. (1993). Anorthosites. Berlin, : . . 851768311.
- PSRD: The Oldest Moon Rocks
- Carter, J.; Poulet, F.; Flahaut, J.; Ody, A. (2012-12-01). "Detection of anorthosite rocks on Mars". American Geophysical Union, Fall Meeting 2012, abstract id.P44A-07. Retrieved 2024-06-16.
- "This moon mission is landing in Labrador's Mistastin Lake crater". CBC. Archived from the original on 2021-08-31.
- Bowen, N.L. (1917). "The problem of the anorthosites". J. Geol. 25 (3): 209–243. :1917JG.....25..209B. :10.1086/622473. 128607774.
- Bédard (2001); Emslie et al. (1994); Xue and Morse (1994); Emslie and Stirling (1993); and Xue and Morse (1993).
- Emslie, R.F. (1975). "Pyroxene megacrysts from anorthositic rocks: new clues to the sources and evolution of the parent magmas". Canadian Mineralogist. 13: 138.
- Bybee, G.M.; Ashwal, L.D.; Shirey, S.B.; Horan, M.; Mock, T.; Andersen, T.B. (2014). "Pyroxene megacrysts in Proterozoic anorthosites: Implications for tectonic setting, magma source and magmatic processes at the Moho". Earth and Planetary Science Letters. 389: 74–85. :2014E&PSL.389...74B. :10.1016/j.epsl.2013.12.015.