ランディングギアの仕組みと種類:航空機の安全を支える脚部の技術

航空機や宇宙機が地上や水面で静止し、離着陸や地上走行(タクシング)を行うために不可欠なのがランディングギア(着陸装置)です。イギリス英語では「アンダーキャリッジ」とも呼ばれます。この装置は、飛行していない時に機体の重量を支え、機体を地面から一定の高さに保つことで、機体底部が摩擦や衝突で損傷するのを防ぐ重要な役割を担っています。

初期の航空機では、飛行中も外に出しっぱなしの「固定式」が一般的でしたが、現代の多くの機体では、空気抵抗を減らして速度と制御性を向上させるために、機体内部に折り畳んで収納できる「格納式」が採用されています。

The retractable main landing gear of a Boeing 747-8

Key Facts

  • 重量とコスト: 最大離陸重量(MTOW)の2.5%〜5%を占め、機体コストの1.5%〜1.75%に相当する。
  • 維持費: 機体直接メンテナンスコストの約20%を占める高負荷な部位である。
  • 耐久性: 適切に設計されたホイールは30トンの荷重に耐え、最大50万kmの走行が可能。
  • 基本構造: 現代の主流は「三輪式」だが、用途に応じて尾輪式や自転車式などの変則的な配置も存在する。

ランディングギアの主要な構成と配置

着陸装置の設計は、機体の重量と着陸時の衝撃を吸収し、運航上の安全を確保するために極めて重要です。ホイールの配置によって、主に以下のタイプに分類されます。

代表的なホイール配置

  • 三輪式(Tricycle Gear): 前方にノーズギア、後方にメインギアを配置したデルタ形状。現代の航空機の標準的な形式です。
  • 尾輪式(Conventional Gear): 前方にメインギア、後方に小さな尾輪を配置したナブラ形状。「テイルドラッガー」とも呼ばれます。
  • 特殊配置: 2つのギアを直列に並べた「自転車式(Bicycle)」や、4つのギアを四角形に配置した「四輪式(Quadracycle)」、さらに多くの車輪を持つマルチサイクル形式があります。

Wheel arrangements of large airliners

衝撃吸収メカニズム

着陸時の激しい衝撃を緩和するため、さまざまなショックアブソーバーが使用されています。代表的なものに、圧縮ガスやオイルを利用したオレオストラット(Oleo strut)があり、これにトルクリンクやトレーリングリンクを組み合わせて動作を制御します。また、軽量機では単純な鋼製スプリングやゴムディスクが用いられることもあります。

機体規模と運用環境による最適化

大型機における荷重分散

機体が大型化し重量が増すと、滑走路への負荷(路面荷重)を抑えるために車輪の数が増やされます。例えば、世界最大の貨物機であったアントノフ An-225は、メインギアに28個もの車輪を備えていました。また、エアバス A380のような超大型機でも、複数のボギー(車輪セット)を組み合わせて荷重を分散させています。

水上および特殊環境での運用

運用場所に応じて、ホイール以外の形式が採用されます。水上での運用にはフロート(浮き)や、船体そのものを浮かせた飛行艇形式が使われます。また、雪上や氷上ではスキーが、垂直離着陸機や一部の試験機ではスキッド(ソリ)が利用されます。

Wheel-skis

実験的なアプローチ:履帯(トラック)式

滑走路への負荷をさらに軽減するため、戦車のキャタピラのような履帯式ギアの試験が行われたことがあります。B-36 ピースマーカーなどの機体でテストされ、通常の4輪ボギーに比べて路面へのストレスを3分の1まで削減できることが確認されました。

Experimental tracked gear on a B-36 Peacemaker

運用管理と安全性

操舵とタイヤ圧の管理

地上での方向転換は、ラダー(方向舵)のほか、ノーズギアを直接操作するティラー(操舵輪)や、左右のブレーキを個別に操作する差動ブレーキによって行われます。

また、タイヤの空気圧は運用環境で調整されます。例えば、海軍の航空機は空母上と陸上では異なる圧力を設定します。ロッキード C-5 ギャラクシーのように、目的地に合わせて飛行中にタイヤ圧を変更できる複雑なシステムを持つ機体も存在します。

故障のリスクと事例

ランディングギアの不具合は重大な事故に直結します。ボンバルディア Dash 8では、ロック機構の不具合により脚が展開しないトラブルが相次ぎ、一部の航空会社が機体を退役させる事態となりました。

All Nippon Airways Flight 1603, a Bombardier Dash 8 Q400, resting on its nose at Kōchi Airport after its nose gear failed to deploy prior to landing, 13 March 2007

宇宙機における着陸装置

宇宙空間から天体へ降り立つ宇宙機では、地球上の航空機とは全く異なるアプローチが取られます。アポロ月面着陸機のような脚状の構造のほか、火星パスファインダーのように巨大なエアバッグで衝撃を吸収して弾む方式、あるいはフィラエのように銛(もり)やネジで表面に固定する方式などが採用されています。

Falcon 9 descending, just after landing legs were extended, May 2017

まとめ:ランディングギアの特性比較

形式 主な特徴 主な用途・メリット
三輪式 前方に1つ、後方に2つのギア配置 現代の主流。地上走行の安定性が高い
尾輪式 前方に2つ、後方に1つのギア配置 軽量機や旧式機。不整地での運用に適す
格納式 飛行中に機体内部へ収納可能 空気抵抗を削減し、高速飛行を実現
フロート/スキー 車輪の代わりに浮きや板を使用 水上、雪上、氷上での運用を可能にする
履帯式 キャタピラ状の接地機構 路面への荷重を大幅に分散(主に試験的)

Frequently Asked Questions

なぜ現代の航空機の多くは三輪式を採用しているのですか?

三輪式は機体が水平に保たれるため、パイロットの視界が確保しやすく、地上走行時の安定性が非常に高いためです。対して尾輪式は機首が上がり、視界が制限される傾向があります。

格納式ランディングギアの最大のメリットは何ですか?

最大のメリットは空気力学的な効率化です。飛行中に脚を機体内に収納することで、空気抵抗(ドラッグ)を劇的に減らすことができ、結果として巡航速度の向上と燃費の改善につながります。

オレオストラットとはどのような仕組みですか?

窒素などの圧縮ガスと作動油を組み合わせた油圧式ショックアブソーバーです。着陸時の強い衝撃をガスと油の圧縮・移動によって吸収し、機体へのダメージを最小限に抑えます。

宇宙機の着陸装置は航空機とどう違うのですか?

宇宙機は大気のない環境や未知の地形に着陸するため、単純な車輪ではなく、衝撃吸収用のエアバッグ、着陸脚、あるいは表面に固定するためのアンカーなど、目的地(月や火星など)の環境に特化した設計がなされています。

タイヤの空気圧を飛行中に変更するのはなぜですか?

目的地となる飛行場の路面強度(舗装の状態)に合わせて接地圧を調整するためです。路面が弱い場所では圧力を下げて接地面積を広げることで、滑走路の破損を防ぎます。