1952年にニューヨークで産声を上げたAce Books(エース・ブックス)は、アメリカのSFおよびファンタジー出版において極めて重要な役割を果たしてきた出版社です。創業当初はミステリーや西部劇を主軸としていましたが、やがてSFというジャンルに特化することで、世界的な影響力を持つレーベルへと成長しました。
現在は世界最大の出版グループであるペンギン・ランダムハウス傘下のバークリー・ブックス(Berkley Books)の一 imprint(出版ブランド)として、その伝統を継承しています。
Key Facts
- 創業: 1952年、A.A.ウィンによって設立
- 象徴的な形式: 1冊に2作品を収録し、本を反転させて読む「Ace Double(エース・ダブル)」形式
- 主要ジャンル: SF、ファンタジー(初期はミステリーや西部劇も展開)
- 歴史的功績: フィリップ・K・ディックやアーシュラ・K・ル=グウィンなど、数多くの巨匠を世に送り出した
- 現在の体制: ペンギン・ランダムハウス傘下のブランドとして運営
革新的な「Ace Double」とジャンルの変遷
Ace Booksの初期を象徴するのが、tête-bêche(テート・ベッシュ)と呼ばれる特殊な製本形式です。これは1冊の本に2つの物語を収録し、一方の物語を読み終えた後、本を180度回転させて裏表紙からもう一方の物語を読み始めるというユニークな構造でした。この「Ace Double」形式は、読者に高いコストパフォーマンスと新鮮な読書体験を提供し、コレクターの間でも高く評価されています。
![Ace Double D-36, Robert E. Howard's Conan the Conqueror. The novel on the reverse side was Leigh Brackett's The Sword of Rhiannon. Cover by Norman Saunders.[1]](/images/e0/36/e036d012f8db0b1bc8312654ee83f2c36fb6536c950d0b5a72f47c5f6137c8bc.jpg)
創業当初はミステリーや西部劇が中心でしたが、1953年にA.E.ヴァン・ヴォクトの作品を出版したことでSF分野へ進出しました。この転換は劇的な成功を収め、数年後にはSF作品の出版数が他のジャンルを圧倒することになります。1950年代から60年代にかけては、バランタイン・ブックスと並び、アメリカのSFペーパーバック市場を牽引する存在となりました。
黄金時代を支えた編集者と作家たち
Ace Booksの成功の裏には、ドナルド・A・ウォルハイムやテリー・カーといった先見の明を持つ編集者の存在がありました。彼らは、フィリップ・K・ディック、サミュエル・R・ディレイニー、ロジャー・ゼラズニといった、後にSFの金字塔となる作家たちの初期作品を積極的に世に送り出しました。
特にテリー・カーが主導した「Ace Science Fiction Specials」シリーズは、批評的に高く評価されるオリジナル小説を多数出版し、ジャンルの質的な向上に寄与しました。

出版史に残るエピソードと苦境
栄光の一方で、波乱の歴史もありました。1965年には、著作権が消滅したと誤認し、J.R.R.トールキンの『指輪物語』を無断でペーパーバック出版したことが大きな議論を呼びました。最終的にAceはトールキンにロイヤリティを支払うことで合意し、当該版を絶版としています。
また、1967年の創業者A.A.ウィンの死去後、経営状態が悪化し、作家への支払いが滞るなどの深刻な財務問題に直面しました。これにより、中心人物であったウォルハイムやカーが1971年に社を去ることとなりました。
組織の変遷と現代への継承
1970年代以降、Ace Booksは所有者の変遷を経て、グロセット&ダンラップ社やG.P.パトナムズ・サンズ社に吸収されました。その後、1996年にペンギン・グループ(USA)に買収され、現在はペンギン・ランダムハウスの体制下で、SF・ファンタジー専門のインプリントとして活動しています。
1980年代にはテリー・カーがフリーランス編集者として復帰し、ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』など、サイバーパンクの先駆けとなる記念碑的なデビュー作を世に送り出すなど、再び黄金期を迎えました。
Ace Booksの基本データまとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 親会社 | ペンギン・ランダムハウス(バークリー・ブックス) |
| 設立年 | 1952年 |
| 創業者 | A.A.ウィン |
| 拠点 | アメリカ合衆国 ニューヨーク市 |
| 主な出版ジャンル | サイエンス・フィクション(SF)、ファンタジー |
| 代表的な形式 | Ace Double(tête-bêche製本) |
Frequently Asked Questions
「Ace Double」とはどのような形式の本ですか?
1冊の本に2つの異なる作品が収録されており、本を上下逆さまに回転させて読む「tête-bêche(テート・ベッシュ)」という特殊な製本形式のことです。1973年までこの形式の書籍が発行されていました。
Ace BooksがSFに特化したきっかけは何ですか?
1953年にA.E.ヴァン・ヴォクトの作品を出版したことが転機となりました。これが大きな成功を収めたため、次第にミステリーや西部劇を上回るペースでSF作品を出版するようになりました。
どのような有名な作家を出版していましたか?
フィリップ・K・ディック、アーシュラ・K・ル=グウィン、ウィリアム・ギブソン、サミュエル・R・ディレイニーなど、SF・ファンタジー界の巨匠たちの初期作品や代表作を数多く手がけています。
現在のAce Booksはどのような状態ですか?
現在は世界最大手の出版社であるペンギン・ランダムハウスの傘下にあり、SFおよびファンタジー作品を専門に扱うインプリント(ブランド)として運営されています。
書籍のシリアル番号(Dシリーズなど)には意味がありますか?
1980年代後半まで使用されていたアルファベット付きのシリアル番号(例:D-31、F-77など)は、主にその本の販売価格を示すための識別子として利用されていました。
References
- Nielsen (2007), p. 169.
- Tuck (1978), p. 471.
- Stephensen-Payne, Phil (May 11, 2006). "Magazine Data File". Galactic Central. Archived from the original on April 30, 2006. Retrieved May 11, 2006.
- Knight (1977), p. 130.
- Kelley (1982), pp. 1-14.
- Reitz, Joan M. (June 29, 2023). "ODLIS T". odlis.abc-clio.com. Archived from the original on March 27, 2023. Retrieved June 29, 2023.
- Corrick (1989), pp. 6-10.
- Wollheim (1989), p. 5.
- Corrick (1989), p. 11.
- Asimov (1980), p. 16.
📸 フォトギャラリー
![Ace Double D-36, Robert E. Howard's Conan the Conqueror. The novel on the reverse side was Leigh Brackett's The Sword of Rhiannon. Cover by Norman Saunders.[1]](/images/e0/36/e036d012f8db0b1bc8312654ee83f2c36fb6536c950d0b5a72f47c5f6137c8bc.jpg)
