6dF銀河サーベイ:近傍宇宙の構造を解き明かす赤方偏移調査

宇宙の広大な地図を作成し、その構造を理解することは天文学の究極の目標の一つです。6dF銀河サーベイ(6dFGS)は、近傍宇宙の広範囲にわたる銀河の分布を精密にマッピングした大規模な赤方偏移サーベイです。2001年から2009年にかけて実施されたこのプロジェクトは、私たちが住む宇宙の局所的な姿を明らかにする上で極めて重要な役割を果たしました。

Key Facts

  • 観測期間:2001年から2009年まで実施。
  • 観測装置:オーストラリアのサイディング・スプリング天文台にある1.2m UKシュミット望遠鏡と6dF装置を使用。
  • 観測規模:南天の約17,000平方度をカバーし、125,071個の銀河カタログを作成。
  • 特筆点:近赤外線(2MASS)を基準にターゲットを選定し、塵の影響を最小限に抑えた。
  • 科学的成果:バリオン音響振動(BAO)の検出や、ハッブル定数の算出に寄与。

6dFGSの概要と観測手法

6dFGSは、アングロ・オーストラリア天文台(AAO)によって主導された赤方偏移サーベイです。赤方偏移とは、遠ざかる天体から届く光の波長が伸びる現象のことで、これを測定することで天体までの距離や後退速度を推定できます。

このサーベイでは、1回のポインティングで6度の視野を観測できる「6dF」という特殊な装置が用いられました。この装置には150本の光ファイバーを備えた多物体分光器が搭載されており、効率的に大量の銀河スペクトルを収集することが可能でした。その結果、136,304個のスペクトルが得られ、そのうち110,256個の新しい銀河外赤方偏移が特定されました。

近赤外線選定のメリット

従来のサーベイが可視光を用いていたのに対し、6dFGSは2MASS(Two Micron All Sky Survey)という近赤外線全天サーベイのデータを基に観測対象を選定しました。この手法には大きな利点があります。

  • 質量の正確な把握:近赤外線では、若く青い星よりも、銀河の質量の大部分を占める古い星からの光が支配的であるため、銀河の総質量をより正確に評価できます。
  • 塵の透過性:長波長の光は宇宙塵による吸収や散乱の影響を受けにくいため、天の川銀河の平面に近い領域でも観測が可能です。
  • 方向依存性の排除:近赤外線光度は銀河の向きに左右されにくく、信頼性の高い質量指標となります。

宇宙論への貢献と科学的成果

6dFGSは、その膨大なデータ量により、宇宙の進化を解明するための重要な指標を導き出しました。

バリオン音響振動(BAO)とハッブル定数

本サーベイは、初期宇宙の密度ゆらぎが残した「バリオン音響振動(BAO)」という信号を検出できる数少ない大規模調査の一つです。低赤方偏移領域での精密な観測により、宇宙の膨張率を示すハッブル定数(H0)を算出することに成功しました。報告された値は H0 = 67 ± 3.2 km/s/Mpc であり、これは距離梯子法による測定結果に匹敵する精度を持っています。

特異速度サーベイによる質量分布の解析

銀河の観測される速度は、「宇宙膨張による後退速度」と「銀河固有の運動(特異速度)」の合算です。6dFGSのサブサンプルを用いた特異速度サーベイでは、早期型銀河の「基本平面(Fundamental Plane)」という関係式を用いて距離を推定し、赤方偏移との差から特異速度を割り出しました。

この解析により、局所宇宙における質量の分布や、物質の集団的な運動(バルクフロー)を測定することが可能になりました。ただし、内部速度分散の測定という高度な分析が必要なため、対象となる銀河は全体の約10%に限定されています。

サーベイ規模の比較

6dFGSは、当時の世界最大級の赤方偏移サーベイの一つであり、特にカバー面積において際立っています。

主要な赤方偏移サーベイの比較
サーベイ名 特徴・規模 備考
6dFGS 南天 約17,000 deg2 近赤外線選定、近傍宇宙に特化
2dFGRS 6dFGSの約1/10の面積 先駆的な大規模サーベイ
SDSS 分光面積は6dFGSの半分以下 世界最大級の総合サーベイ

Frequently Asked Questions

6dFGSは何を目的とした調査でしたか?

近傍宇宙における銀河の分布をマッピングし、宇宙の構造や質量の分布、そして宇宙の膨張率(ハッブル定数)を精密に測定することを目的としていました。

なぜ可視光ではなく近赤外線が使われたのですか?

近赤外線は宇宙塵の影響を受けにくく、また銀河の質量の大部分を占める古い星の光を捉えやすいため、より正確な質量評価と広範囲な観測が可能になるからです。

「特異速度」とは具体的に何を指しますか?

宇宙全体の膨張に伴う後退運動とは別に、近隣の銀河同士の重力相互作用などによって生じる、個々の銀河独自の運動速度のことです。

このサーベイで得られたハッブル定数の値は?

Beutlerら(2011年)の報告により、H0 = 67 ± 3.2 km/s/Mpc という値が導き出されました。

6dFGSのデータは現在どのように利用できますか?

エディンバラ王立天文台がホストするオンラインデータベースを通じて、赤方偏移やスペクトルデータが公開されており、世界中の研究者が利用可能です。