1989年のイギリス音楽界は、80年代を締めくくる華やかなポップスの絶頂期と、次世代のダンスミュージックへの移行が交差するエキサイティングな一年でした。チャートの仕組みが変更されるなどの制度的な変化もあり、音楽の消費形態が多様化した時代を象徴しています。
Key Facts
- チャートの分離: 1月よりコンピレーションアルバムが専用チャートに分離され、アルバムチャートの構成が変わった。
- ポップスの覇者: ストック・エイトキン・ウォーターマン(SAW)がプロデュースするアイドルポップが市場を席巻。
- ダンスの流行: イタロ・ハウスやハウスミュージックが台頭し、Black Boxなどの楽曲が記録的なヒットを飛ばした。
- 世界的スターの躍進: マドンナが批評的にも成功したアルバムをリリースし、米国のNew Kids on the Blockが新たなアイドルとして登場。
- 年末の象徴: 80年代最後のクリスマス・ナンバーワンは、チャリティプロジェクト「Band Aid II」が獲得した。
チャート制度の大きな転換点
1989年の幕開けとともに、UKアルバムチャートに重要な変更が加えられました。1月8日の週から、それまでアルバムチャートに混在していたコンピレーションアルバム(ベスト盤やオムニバス盤)が除外され、新設された「UKコンピレーション・チャート」へと移行したのです。これにより、1983年以降チャートの上位を独占していた「Now」シリーズなどの影響力が分離され、個別のアーティストアルバムがより評価されやすい環境となりました。
ストック・エイトキン・ウォーターマンの全盛期
この年、イギリスのポップシーンを支配していたのは、プロデューサーチームのストック・エイトキン・ウォーターマン(SAW)でした。彼らはカイリー・ミノーグやジェイソン・ドノヴァンといったティーンアイドルを次々とヒットさせ、チャートを席巻しました。特にドノヴァンのアルバム『Ten Good Reasons』は、この年の年間アルバム売上1位を記録するほどの爆発的な人気を博しました。
また、SAWはベテランのドナ・サマーのキャリアを再燃させ、『This Time I Know It's for Real』で10年ぶりのトップ10入りを果たすなど、幅広い世代にアプローチするヒット曲を量産しました。
ダンスミュージックの進化とイタロ・ハウスの衝撃
夏から秋にかけては、新しいサウンドがチャートを塗り替えました。特に注目を集めたのがイタロ・ハウスというジャンルです。Black Boxの『Ride on Time』は、年間で最も売れたシングルとなり、6週間にわたって1位を維持しました。この曲はサンプリングを多用した手法で話題となりましたが、同時に権利関係の法的トラブルも引き起こし、後のプレス盤ではボーカルが変更されるという騒動もありました。
また、ハウスミュージックの潮流はInner Cityや、後にソロで成功するリサ・スタンフィールド(Coldcutとの共作『People Hold On』など)によって牽引され、クラブカルチャーがメインストリームへと浸透していきました。
多様なヒットメーカーと世界的アイコン
ポップアイコンのマドンナは、シングル『Like a Prayer』で6度目の1位を獲得。ミュージックビデオが物議を醸したものの、同名のアルバムは世界的に高い評価を受けました。また、米国から上陸したNew Kids on the Blockが、Brosに代わる新たなボーイズグループとして熱狂的な支持を集め、秋には『You Got It (The Right Stuff)』でチャート首位に登り詰めました。
一方で、Jive Bunny and the Mastermixersによる「メガミックス」という手法も流行し、過去のヒット曲を繋ぎ合わせた楽曲で3曲のシングルを1位にするという快挙を成し遂げました。
1989年の音楽まとめ
| カテゴリー | アーティスト / 作品 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 年間シングル売上1位 | Black Box / 「Ride on Time」 | イタロ・ハウスの代表曲 |
| 年間アルバム売上1位 | ジェイソン・ドノヴァン / 『Ten Good Reasons』 | マルチプラチナディスク達成 |
| クリスマス・ナンバーワン | Band Aid II / 「Do They Know It's Christmas?」 | 80年代最後の1位曲 |
| BRITアワード最優秀男性歌手 | フィル・コリンズ | 当時の英国音楽界の顔 |
クラシックと現代音楽の動向
ポピュラー音楽以外でも、重要な出来事がありました。9月10日にはロイヤル・アルバート・ホールで開催されたBBCプロムスにて、ピーター・マックスウェル・デイヴィスの交響曲第4番が初演されました。また、マルコム・アーノルドやハリソン・バートウィッスルらによる現代作品も発表され、芸術音楽の分野でも活発な創作が行われていました。
Frequently Asked Questions
1989年のアルバムチャートに起きた大きな変更とは何ですか?
1月8日の週から、コンピレーションアルバム(ベスト盤など)が通常のアルバムチャートから除外され、新設された「UKコンピレーション・チャート」へ移動しました。これにより、個々のアーティストの作品がより公平にチャートに反映されるようになりました。
この年、最も影響力のあったプロデューサーは誰でしたか?
ストック・エイトキン・ウォーターマン(SAW)です。彼らはカイリー・ミノーグやジェイソン・ドノヴァンなどのアイドルポップを量産し、チャートの多くを支配しました。
Black Boxの「Ride on Time」が物議を醸したのはなぜですか?
楽曲内でロレッタ・ホロウェイのボーカルをサンプリングしていましたが、ミュージックビデオでは別の女性が歌っているように見せていたため、法的問題に発展しました。その結果、後のプレス盤ではボーカルが変更されました。
80年代を締めくくる最後のナンバーワン・シングルは何でしたか?
Band Aid IIによる「Do They Know It's Christmas?」のニューバージョンです。SAWがプロデュースし、当時の多くのスターが集結したチャリティソングとなりました。
1989年のBRITアワードで注目されたアーティストは?
フィル・コリンズが英国男性ソロアーティスト賞を、アニー・レノックスが英国女性ソロアーティスト賞を受賞しました。また、国際的な部門ではマイケル・ジャクソンやU2、トレーシー・チャップマンらが高く評価されました。
References
- Reached number 1 in 1988
- Reached number 1 in 1987